ツクリエ初の高校生インターン登場! アメリカ在住の18歳が見た日米の起業支援の違いとは?
2022年夏、ツクリエでは米カリフォルニア州の高校で学ぶ遠田一心(えんた・いっしん)さんをインターンとして受け入れました。
近い将来、起業することを目指している遠田さんは、高校の授業でアントレプレナーシップ(起業家精神)などを学んでいるそう。
そうした経緯からこの7月、夏休みの帰国時に日本の起業支援の現場を知りたいと、グローバル事業チームで業務体験をすることに。学生への起業家教育事業にも取り組むツクリエでの実習を通して、どのような刺激を受け、何を学んだのか。
若い感性がキャッチした、日米における起業支援の違いなどを踏まえて語ってもらいました。
インタビューに応えてくれたのはアメリカの高校3年生・遠田一心さん!
2004年生まれ。小学校時代、家族旅行で訪れたニュージーランド滞在中に現地の学校で体験学習を経験。中学受験を前に日本の受験対策に特化した教育システムから離れ、スポーツクラスや実践的な課外活動も充実しているニュージーランドの寄宿中学校への進学を決意。高校からはアメリカに拠点を移し、名門スタンフォード大学からほど近い、アートやスポーツも盛んなキリスト教カトリック系の進学校に入学。コロナ禍による学校閉鎖期間も乗り越え、3年次からはアメリカの高校で広く取り入れられている大学初級レベルのカリキュラムが学べるAP(アドバンスト・プレイスメント)プログラムで経済学を履修。この秋から最終学年の4年生に進級、先の校内選挙で当選した日本人初の生徒会長としての活動に併せて、アメリカの大学受験に向けた準備を進めている。
学生の“起業したい”という強い気持ちを応援したい!
ここ数年で“起業支援“が社会的に注目されるようになった一方、いまだ日本は“起業家不足”の状況にある、というアンバランスな現実があります。
内閣官房成長戦略会議では、日本で起業が少ない原因として「失敗に対する危惧」「身近に起業家がいない」「学校教育」の順で上位にあがった、日本人起業家らへのアンケート調査結果が取り上げられました(出典:令和3年3月17日第8回成長戦略会議資料より)。
今あらためて「“起業支援とは何か”を真正面から考え、社会に提示する」ことに取り組むツクリエは、こうした現状を変えるべく、鈴木英樹代表はじめインキュベーションマネージャーたちが教育機関や自治体主催の学生向け起業家育成ワークショップに出張し、ティーンエイジャーに起業家マインドなどを伝える取り組みを始めています。(関連情報は文末のコラムにて)
今回、高校生の遠田一心さんをインターンとして受け入れた理由も、起業家教育の一環といえます。ツクリエのHR・広報チーム・シニアマネージャーの海渡雅由さんは次のように説明してくれました。
「実は現在、ツクリエは新卒採用を行なっていません。事業規模の兼ね合いから、ある程度社会人経験を踏んだ方に入社当初から能動的に活動してもらいたい、という思いがあるからです。
そうした中、遠田さんをインターンとして採ったのは、“将来、起業したい”という強い気持ちをもっていたのが最大の理由です。起業支援という仕事を経験することで、ご自身の起業を多角的な視点でとらえてもらえるようになれば、これも起業家教育の一環となるのではないかと考えました。
今後も起業に関心をもつ学生さんに対しては、インターンとして業務体験できる機会を設けていきたいと考えています。」
こうした経緯から、海外での学生生活が長く英語が堪能な遠田さんが配属されたのは、ツクリエのグローバル事業チーム。海外の優れたスタートアップを発掘し、日本の市場とつなぐ国際ピッチイベントなどを開催している部署です。
ここには遠田さんのお父さんとMBAビジネススクール時代の同期生であるマレーシア出身のコウ・ブンホウさんが活躍しています。
インキュベーションマネージャーでもあるコウさんの指導のもと、遠田さんがどのような業務を1ヶ月にわたって体験したのか、次から見ていきましょう。
刺激的なインターン生活で何を学べた?
アメリカの教育制度は小学校から高校までを12年間で区切り、高校課程は9〜12のグレード(学年)で構成されます。この9月から最終学年の12年生(高校4年生)になる遠田さんによると「12年生になると大学受験の準備で忙しくなるので、今回の僕のように11年生から12年生に移るタイミングの夏休みに企業インターン活動をする高校生はけっこういる」のだとか。
ただ、人気企業のインターン枠は大学生で埋まってしまうことが多く、「この夏、一時帰国の際に日本の会社で受け入れてもらえたのは、とてもラッキーでした」と、刺激的だったという職場体験を振り返ります。
それでは、彼が経験した主なインターンの内容をまとめてみましょう。
【遠田さんのインターンライフ】
◆ツクリエとマレーシア政府傘下企業の共催による、マレーシア発イノベーション会社の日本進出を支援するアクセラレーションプログラムの運営を指揮するコウさんを手伝いながら、プロジェクト推進のノウハウを教わる。
同プログラムはゲームアプリ制作やヘルスケア関連など、マレーシアの企業10社が日本市場について学ぶ機会を提供しながら、ローカライズやビジネスマッチングを行なっている。遠田さんはコウさんが行なった参加企業へのメンタリングにも同席した。
遠田さん「これは3ヶ月にわたるプロジェクトなので、僕は途中でインターン期間終了となり、最後まで見届けることはできませんでした。
が、それでも社会にインパクトをもたらそうと頑張るイノベーション企業と、試行錯誤しながらも最後まで一緒にプロセスを踏んで支援していくコウさんたちの仕事は、率直に“すごい!”のひと言です。」
◆グローバル事業チームが定期的に開催している東南アジアや南アフリカ、南米のスタートアップによるグローバルピッチイベントを視聴。
登壇企業のプレゼンテーションから、欧米とは異なる発展著しい国のスタートアップ動向を学んだ。
遠田さん「とにかく、ものすごく世界観が広がりました! これまで僕は、日本、ニュージーランド、アメリカの社会しか知らず、視野が狭かったなと。世界には、いろんな地域にさまざまなニーズがある。それらをもとにビジネス展開しているスタートアップたちのチャンレジ精神にインスパイアされました。」
◆ツクリエ社内で行われた新入社員研修に参加。起業支援の基礎を学び、転職してきた社会人たちと一緒に、これからの支援のあり方などについて意見交換をした。
遠田さん「いろんな分野で経験を積んできた社会人の方々と、日ごろ出会うことも話し合う機会も少ない高校生活なので、社員さんたちとのやりとりには刺激を受けました。
研修でプロジェクトのプレゼンを考える時間があったのですが、アイデアをカタチにしていく中で、自分のことも分析しながら作業を進めていく必要があって。ひと口に起業支援と言っても、考えるべきことも、やることもたくさんあるんだなと。
アメリカに戻ったら生徒会長としての活動が始まるのですが、生徒会でも人材や予算を責任持ってマネジメントしていく必要がある。インターン中に研修で学んだことは、とても参考になると感じています。」
このようにツクリエで貴重な経験を得た遠田さん。指導役を努めたコウさんは次のようにエールを送ります。
コウさん「今回、一心くんにはマレーシアのスタートアップとの面談に立ち会ってもらったわけですが、次の機会があれば日本の起業家との面談も体験してもらいたいですね。日本人と海外のスタートアップにはメンタリティなどに差があり、支援方法にも多少の違いがあるので、将来的に日本でも事業展開するなら知っておいたほうがいいと思うからです。
とはいえ、私はこれまでにもツクリエのグループ会社で受け入れた社会人インターンと接したことがありますが、起業家マインドの有無で比較すると、学生の一心くんのほうが意識は高いように感じました。今後もアメリカで勉強を続ける中で、スタートアップとして身を立てていく機運を上手くとらえてくれたらと願います。」
日本の“起業家に寄り添う”現場に感激!
すでに紹介したように、遠田さんは高校のカリキュラムで経済学を履修し、その中で起業家マインドやビジネス実践能力を醸成するアントレプレナーシップについても学んでいます。
日本でも近年、文科省や中小企業庁などが小学生から大学生までを対象に、さまざまな起業家教育プログラムを提供し始めています。
が、大学においても、アントレプレナーシップ教育を受講している日本人学生は300万人中3万人(全体の1割)に過ぎないという調査結果も(出典:令和3年7月30日文科省資料「アントレプレナーシップ教育の現状について」より)。
そうした日本の教育的課題を意識しつつ、遠田さんから見た日米のスタートアップ事情の違いについて聞いてみると、少し意外な答えが。
遠田さん「今回ツクリエさんでインターンを経験させてもらい感じたのは、日本のスタートアップや起業を支援する人たちは、とても慎重に先の先を見越した展開を考えているということ。
一方のアメリカのスタートアップ市場は、もっと単純で直感的な感じがします。例えばGoogleの業績が伸びている時はIT系、ワクチンが出てくれば化学系など、その時期ごとに話題となる分野のスタートアップに投資が集中して、マーケットがオーバーフローするような(笑)。
そうした傾向のおかげでスタートアップにお金が集まり、成長が加速するわけですが、いい意味で日本のように慎重に分析しながらビジネスプランを練っていく方法論も探求していく価値はあると思います。」
そして最後に、ツクリエの起業支援を垣間見て「起業家一人ひとりに、本当に丁寧に寄り添ってくれるんだな、と感じた」という遠田さん。アメリカでよく耳にする“起業コンサルあるある”とは対照的なのだとか。
遠田さん「アメリカの起業コンサルは、スタートアップに対しては高いコンサルティング料を取るわりにはアフターケアがザツ、という話はけっこう聞きます(苦笑)。そういう意味では、日本らしい丁寧なサポートシステムは世界的に見ても重要だと感じました。」
短いインターン生活でも、ツクリエが大事にしている「起業家に寄り添う」姿勢をしっかり汲み取ってくれた様子。近い将来の自らの起業については、「まずはアメリカで起業したいですが、いずれは日本に戻って事業展開したいですし、中学時代を過ごした大好きなニュージーランドでも何かできればと考えています。
僕を育ててくれた3つの国に恩返しができるよう、まずは大学受験を頑張って、さらにビジネスの勉強を深めていける環境をつくっていきたいです!」と、爽やかな笑顔で語ってくれました。
これからもツクリエは、遠田さんのような起業界の若きホープを応援していく活動に取り組んでいきます。
先進国の中でも起業率が低い日本では近年、文科省など行政が主導して学生たちへの創業機運を醸成するプログラムが進められるように。小中学校では総合的学習の時間を使って起業体験推進事業を導入。
高校生には起業家による出張授業や起業家教育プログラムを行った上で、学生たちが考えたビジネスプランを発表できるコンテストが開催されています。
そうした中、ツクリエではこれまで複数の大学と連携してきました。たとえば、昨年度中は千葉大学でイノベーション創出環境強化事業に関わるプロジェクトの課題分析や起業家育成プログラムを実施。この9月からは有名私大の経営学部で開催されるベンチャー育成プログラムのビジネスコンテストで、書類通過者へのアクセラレーションプログラムを提供する予定です。
また、ツクリエが大田区からの指定管理者として運営する創業支援施設「六郷BASE」(東京都大田区)では今年6月、日本工学院専門学校からの施設見学を受け入れ、参加者30名に【もし自分が起業するなら?】というテーマでワークショップを実施。
終了後、「起業は一人きりのイメージがあったので、サポートがあることを知れてよかった」といった感想も寄せられました。
このようにツクリエでは、未来の起業家予備軍となる学生のみなさんにも必要なサポートが届くよう、さまざまな起業家教育の在り方を探究しています。
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