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起業支援の現場から

【起業支援の現場から】なぜその起業家コミュニティは盛り上がらないか<後編>コミュニティマネージャーが思考停止に陥る2つのワナ

経営知識や事業開発経験によらない、まったく違うスキルによってスタートアップの創出を支える職業。それが「コミュニティマネージャー」だ。前編ではコミュニケーションによって起業家を支援するコミュニティマネージャーの仕事について解説した。本記事では、コミュニティマネージャーが陥りやすい2つのワナと、その対処法について紐解いていく。

杉野 雄基

株式会社ツクリエ コミュニティマネージャー

テレビ番組制作会社勤務後、放送作家活動、一般社団法人運営を経て、2017年より株式会社ツクリエに入社。東京都の起業支援施設「Startup Hub Tokyo 丸の内」にてイベントチームマネージャーを担当。これまでに1,000回以上のイベントを統括、実施。その他、放送作家時代から現在まで、様々な事業・プロジェクト立ち上げを経験。

前編:【起業支援の現場から】なぜその起業家コミュニティは盛り上がらないか<前編>スタートアップ支援にはコミュニティマネージャーが不可欠

コミュニティマネージャー業に起こる思考停止のワナ

「コミュニティマネージャーは夢のある楽しそうな仕事」
そう思われる方もいるかもしれません。一方で起業家のコミュニティ運営には難しさもあります。

・思考停止して、ただ漫然とコミュニティを運営してしまう
・その結果、コミュニティは盛り上がらなくなっていく

多くのコミュニティマネージャーにとって、身に覚えがあるのではないでしょうか。

原因は2つあると考えます。
1つは、コミュニティマネージャー自身に余裕がないこと。これが、コミュニティの活性を上げられない要因になっていると考えられます。
もう1つは、コミュニティ運営の目的を理解していないこと。「何のためにこのコミュニティは運営されるのか」。この点をわからずに運営していると、コミュニティに対する行動が漫然となりやすいものです。

ワナその1:コミュニティマネージャー自身に余裕がない

コミュニティマネージャーの仕事の性質上、兼任は難しいものです。
ただし、複数プロジェクトにまたがってコミュニティを管理しなければならない場合も少なくないと思います。

業務過多などによってコミュニティマネージャーのリソースが逼迫すると、コミュニティに対してやるべきことを把握しながら、最適なタイミングで施策を打てないということが起こります。一言でいうと燃料不足です。
コミュニティマネージャー自身に余裕がなくなることで、彼の関わるコミュニティの活性化が低下するのです。

たとえば、頻度の低いイベント告知のみ投下されるコミュニティ。継続的に参加しようと思いませんよね。
コミュニティマネージャーが発信する情報量が低下すると、結果的に参加者のUXを悪くすることにつながります。また、そうなると参加者同士が交流するハードルも上がります。

コミュニティに属する起業家同士の接点は、実は少ないもの。共通点は「起業したい」「事業を成功させたい」という自己実現に類する考えくらいしかありません。そのため、参加者間の会話は、おもに各活動中に発生する共通のイベントに対して行われます。
また、彼らは自身の法人設立やサービスの開始、開発時のメンバー集め、コミュニティ内で共通体験するプログラムについてなど、自分の事業成長に役立ちそうな情報に対して活発に行動するものです。

起業家のコミュニティは、趣味のそれとは異なります。深い知識を持っている人が「これから育つファンをサポートしよう」という思考には至りにくいです。基本的にはテイクのみを期待する集団だと考えて問題ありません。
参加者同士のコミュニケーションが発生する場合も、自分の起業にいかに活用できそうかというテイク思考が強くなります。コミュニティ内ではギブが不足し、参加者間のコミュニケーションが続きにくいのが特徴です。

ギブをもたらし続けられるかがカギ

そのため、スタートアップ支援ではコミュニティマネージャーの存在がポイントになります。
適時競争を促すことや、情報や機会を提供する活動を続けることで、参加する起業家の活動量を上げていく必要があります。
この活動を絶やしてしまうと、コミュニティは機能を失い、SNSはただのイベント掲示板になってしまいます。
この状態のアクティブ率は体感で0〜1%。コミュニティはほぼ死んでいます。

なぜこうなってしまうのでしょうか。理由はコミュニティマネージャーの時間的な余裕だけではありません。
「自分には人を動かしたり、盛り上げたりすることができない、その資格がない」
そんなふうに考えてしまうことによって生まれる、コミュニティや人に対して畏れも含まれます。ある意味では取り除くのが一番難しい問題です。

新しい職種であることも相まって、これまでそんなことをやったことがないという人も多いものです。
コミュニティを育てるのは難しいという認識も生まれやすいでしょう。

ですが、少なからず人生の中で人に関わった経験や、どこかのコミュニティの一員として生活した経験はあるはずです。その経験の中で体験した感情を拾い上げることができれば、コミュニティを運営することは可能です。

ワナその2:コミュニティの目的がわからない

2つ目の「コミュニティの目的を理解していないこと」については、そのベクトルが問題になります。

コミュニティが企画された時点では、コミュニティごとに様々な目的が設定されているはずです。しかし、その目的は日々の活動の中で埋もれてしまいやすいものです。
コミュニティの立ち上げから日が経つにつれ、ただ盛り上がっていることだけを意識し、形骸的な情報提供だけに活動が留まってしまうことがあります。本来のコミュニティの目的を忘れて、活性化の一心でなんでもかんでも情報を投下する、関係ない話題を展開するなどは避けるべきです。

そもそもコミュニティ運営の基本を把握していない場合もありますが、どちらにしても目的から逸れた利用法は場が荒れます。参加者の離脱を加速する要因になるので、コミュニティの目的は常に活動の中心に据えましょう。

コミュニティの目的を問い直す上で

勘違いしがちなのが、コミュニティマネージャーはコミュニティを盛り上げることが目的だと捉えてしまう点です。
本分はコミュニティの目的を達成すること。スタートアップ支援のために作られた起業家コミュニティなら、それをオーダーしたクライアントがいる場合は、目指したいゴールがあるはずです。
起業家を輩出すること、起業文化を広げること、新規事業を立ち上げること等、これらの目的を果たすことが最重要です。コミュニティを盛り上げることは、それらを達成するための方法の1つでしかありません。

コミュニティ構築タイプの起業支援案件の中には、ゴールの手前に設定するべき主要な目標(KPI)をゴールに設定している受託事業もあります。
サッカーで例えれば、KPIはゴールを決められそうな位置に立ってパスを受けることです。KPI達成はあくまでも1得点。状況次第では勝ちも負けもある状態ですが、KPIの積み重ねで勝利(目的)を手に入れることができます。
この場合、KPI達成は通過点として、クライアントの先にいるユーザー(コミュニティ参加者)を対象にゴールを設定し直さなければいけません。そうしなければ、KPIを達成しても本来目指すべき、結果を生み出せるコミュニティとはなりません。

とはいえ、KPI達成にばかり着目してしまうと、肝心のユーザーの満足度を捉えられません。コミュニティからの離脱(メンバー登録後の非アクティブ化等)、ユーザーの質低下(モチベーションが低い、想定しているユーザー層と違う等)につながる可能性もあります。
その結果、市場価値の高いビジネスが集まらない、起業実績の低下、メンバーの活動頻度が低いなどの問題が起こるかもしれません。参加メンバーのコミットが弱くなるほど数値の把握が困難になります。また段階的に支援者離れを招くことも。

これらが重なることで、事業の価値を失い、クライアントの事業の存続にも関わる問題となります。そうなってしまっては、もはやコミュニティどころではありません。
問題に直面してからでは難しいかもしれませんが、予防的な観点でこの事態を避けられるかどうかは、コミュニティマネージャーに懸かっているといってもいいぐらいなのです。
何のためのコミュニティなのか、支援の手段はあっているのか。これらがかみ合っていなければ、何をどれだけ投入しても事業予算を溶かすだけであり、成果を上げられずに失敗に終わってしまいます。

もしあなたのコミュニティがうまくいっていないとお悩みなら、まずはコミュニティの目的(KGI)の確認・再設定をし(=ベクトルの設定)、KPIを達成するための取り組みではなく、KGIを達成するためのメンバーと取り組み(=適切な量の燃料の投下)でコミュニティの運営を再開してみると、違った結果が見えてくるかもしれません。

現在の人々の価値観は多様です。イベントの開催、作業スペースの提供のような単純な機能の提供だけではコミュニティメンバーの心を掴むことはできません。
コミュニティマネージャーのポジションは予算も、決裁権限も持たない場合が多いのではないかと思います。だからといって自由がきかない、思ったことを実行できないなどと言っていても、やってくる結果は同じです。ユーザーはコミュニティの財布事情など知らないのです。
有益な場にするか、時間を浪費するかは、現場に立たされるコミュニティマネージャーがどんな覚悟でその事業のコミュニティ運営に向かうか次第なのです。

まとめ

2点、コミュニティマネージャーの思考停止が招くコミュニティの活性低下について紹介しました。
今コミュニティマネージャーとして働く人が「とりあえず何に注意しておけば失敗を減らせるか」という気づきにでもなればという思いでまとめています。具体例を出しづらいので、ある程度は想像でカバーしていただけたらと思います。

レアな職種であり、求められるシーンが増えたとはいえ、コミュニティ運営の正解はわかりません。鉄板ノウハウといったものも確立されていません。基本的には再現性の低い、属人的な職業です。
ひとりひとりのコミュニティへの向き合いが必要な仕事だからこそ、手を抜くことはできないと考えます。
そんな仕事でありつつ、現場は未経験のコミュニティマネージャーが多いのも実情。目の前の仕事をこなすことで精一杯となるのは想像に難くありません。

また、幅広いスキルを求められ、取り組む業務の幅も多くなりがちです。業務の一部を他者に任せてしまうことも多いと思います。
しかし、できる限りすべてを把握してこそ本当の意味でコミュニティを理解したと言える段階に入ることができます。コミュニティをわかっている人がSNS投稿を他人に任せているなんてもったいないですから。そんな手抜きはユーザーに伝わってしまいます。
これらに気を抜かずに取り組んでこそ、価値のあるコミュニティを生み出せるコミュニティマネージャーと言えるでしょう。

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