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起業支援の現場から

【起業支援の現場から】なぜその起業家コミュニティは盛り上がらないか<前編>スタートアップ支援にはコミュニティマネージャーが不可欠

起業家を助け、支援者をつなぎ、イベントを開催する……
経営知識や事業開発経験によらない、まったく違うスキルによってスタートアップの創出を支える職業、それが“コミュニティマネージャー”。
まだまだ発展途上にあるこの職業だが、起業支援にはコミュニティマネージャーが不可欠な存在なのだ。とはいえ、機能させるにはコツがいる。多くのコミュニティマネージャーが陥る「なぜその起業家コミュニティは盛り上がらないか」という命題に向き合う。

杉野 雄基

株式会社ツクリエ コミュニティマネージャー

テレビ番組制作会社勤務後、放送作家活動、一般社団法人運営を経て、2017年より株式会社ツクリエに入社。東京都の起業支援施設「Startup Hub Tokyo 丸の内」にてイベントチームマネージャーを担当。これまでに1,000回以上のイベントを統括、実施。その他、放送作家時代から現在まで、様々な事業・プロジェクト立ち上げを経験。

はじめに

私が起業支援の世界に入ったのは2017年です。
当時、起業家を助け、支援者をつなぎ、イベントを開催する……そんな職種を一言で表す言葉はありませんでした。少なくとも自分の認識の中には。
“コミュニティマネージャー”という言葉は、当時はおもに「コワーキングスペースを利用する人たちのサポート役」を表していました。
当時担当していたおもな支援業務はイベントの開催だったため“イベントプランナー”と名乗っていました。それがしっくりこず、ほかに適した名前があるはずだと感じていたのをよく覚えています。

2023年。ようやく起業支援界隈のレベルではありますが、起業家を助け、支援者をつなぎ、イベントを開催する人を“コミュニティマネージャー”と名乗ればわかってもらえるような雰囲気になってきました。
ただしもちろん、業界の外に出れば「コミュニティマネージャーってなに?」からはじまります。まだまだ周知が必要な認知度です。

とはいえ、一部の企業では正式なポジションとしてコミュニティマネージャーを認めるようになってきました。また、未経験者の採用など、活動ができる機会も増えています。これは、コミュニティマネージャーにとって大きな進歩ではないかと感じています。
このように、コミュニティマネージャーとは発展途上にある職業です。そんな仕事の魅力や難しさについて話を進めていきたいと思います。

コミュニティ運営はクリエイティブだ

いま、レアでナイスな職業がスタートアップ支援の現場を盛り上げています。
経営知識や事業開発経験によらない、まったく違うスキルによってスタートアップの創出を支える職業、それが“コミュニティマネージャー”です。

昨今、様々なシーンでコミュニティマネージャーが求められる機会が増えています。
「コミュニティとは」や「コミュニティマネージャーとは」的な説明は、検索すればいろいろと出てきますので割愛します。
ここでは、コミュニケーションの創出をおこなうコミュニティマネージャーの魅力をお話しします。
さて、その中で最初に言っておきたいこと。

「コミュニティマネージャーはゼロイチを知っているクリエイターだ」

こう言うと飛躍した表現のように感じるかもしれません。
しかし、「どれだけ盛り上がり、人気のあるコミュニティが出来上がるかはやってみないとわからない」という不確かな部分はクリエイティブそのものです。
オンラインもオフラインも、企画された人の集まりであれば、それはコミュニティマネージャーのクリエイティブということなのです。

コミュニティマネージャーが扱うのは、コミュニケーションというナマモノ。イベントを開催し、その集まりに価値があるように見せることで参加者をコミットさせ、さらに外にいる参加者候補に興味を抱かせます。
これを繰り返し、アクティブなユーザー(参加者)を拡大していきます。

しかし、これがそう簡単にいかない。
思ったようにアクティブ率が上がらない、イベント参加者が少ない……コミュニティマネージャーは日々頭を悩ませています。
ましてや事業会社などによるコミュニティ運営であれば、商品やサービスの購入など、コミュニティの先にある本来の目的達成はなかなかに遠い。LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)向上はいつになるやら。
長期的な目線で気長に、高いコミットを続けていかなければいけない。わかっていても、そうもいかない。
効果が上がっているのか計測しにくいため、社内の理解も思うように得られない。そんな悩みがつきまといます。

スタートアップ支援にコミュニティマネージャーは欠かすことができない

コミュニティマネージャーの活躍によって、新しい出会いが生まれ、コミュニケーションが盛り上がり、参加者がコミュニティへのコミットを高める。そのコミュニティは活発になり、外部に存在を認知されていく。
こんなものがまさか日本でも仕事になるとは、数年前なら想像もつかなかったことだと思います。

なぜ現代ではコミュニティマネージャーが求められるようになったのでしょうか。
考察は様々あると思いますが、ひとつの答えとして「価値観の多様化が進んだことで、同じ価値観を持つ人を集めることが難しくなったから」と言えるでしょう。
現代では、「場所」「人」「モノ」「情報」など多種多様な価値の中から、必要なものをピックアップして適切な対象に届けられる能力が求められています。

起業支援ラボの趣旨に沿って、スタートアップ支援の文脈でコミュニティマネージャーの役割を考えると、この職業には非常に大きな可能性があると言えそうです。
なぜなら、起業は多くの人の力を借りなければいけない取り組みだからです。

昨今、起業にまつわる動向に注目が集まりやすくなっています。
そんな中、民間や自治体を問わず、日本の至る所でスタートアップを支援する拠点が増加。その場をとりまとめる存在としてコミュニティマネージャーが採用されています。
そのほか、起業家を育成する「インキュベーションプログラム」や「アクセラレータープログラム」といった独特の仕組みを生み出しているスタートアップカルチャーがあります。これらに紐付くコミュニティのハブとなる存在がコミュニティマネージャーです。

コミュニティごとに名称や細かな活動内容が異なるかもしれません。しかし、コミュニティ内のあらゆる支点となる中心的な存在であることは共通しています。
コミュニティマネージャーは、起業家や参画するステークホルダーの間に立ち、彼らの目的に応じた人脈開拓のサポートをおこないます。スタートアップを構成するパーツのつなぎ役として存在感を示しています。

「双方向のコミュニケーション」でスタートアップを支援する

スタートアップの世界は優れた人材の宝庫です。
支援者は士業やコンサルタント、ベンチャーキャピタル、大企業の担当者など。スペックの高い人材が豊富です。
また、起業家もその事業領域の専門家。優れたメンタリティを形成した人も多く、存在感を示しています。
そんな世界で働くコミュニティマネージャーには、どれほど高い能力が求められるのか。突出した能力を持っていなければ居場所がないのか。

実は、そういうわけでもありません。
コミュニティマネージャーが専門に扱う「双方向のコミュニケーション」こそ、スペックの高い人たちが疎かにしがちなのです。
彼らがコミュニケーションを苦手とするかというと、そうではありません。他に優先するべき事項と比較した時、忙しい彼らにとってコミュニケーションコストを省けることは歓迎です。

一方向に発信することは得意でも、丁寧に双方向のコミュニケーションをとることは、コストのかかる作業として敬遠されるもの。それを彼らに代わって担うのがコミュニティマネージャーの役目です。
コミュニティ参加者の思いを理解し、ニーズを汲んで橋渡しをすることで、コミュニティ内のパズルを組み合わせていくというクリエイティブ。それを楽しめるかどうかが、コミュニティ運営の成否を握るほどです。

それだけに、複数のコミュニティに関わることは難しい、消耗の激しい仕事です。
コミュニティマネージャーも人間。思いを寄せられる対象を絞り込んで活動することが必要です。
どれも完璧にこなそうというスーパーマンのようなことは不可能だと割り切って、1つのコミュニティに注力する。コミュニティ運営者としてベースに持っておくべき考え方だと思います。

→ <後編>コミュニティマネージャーが思考停止に陥る2つのワナ へ続く。

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