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起業の潮流
公開日:2023.08.10
みなさんは『中小企業白書』を読んだことありますか?
『中小企業白書』は、経済産業省中小企業庁が毎年国会に提出する中小企業の動向を詳細に調査・分析した報告書。
…というとちょっと難しそうなイメージですよね?
毎年600ページ超え!という膨大な白書ですが、中身はグラフや事例がいっぱいで比較的平易な言葉で書かれています。
『中小企業白書』を読むと、中小企業の現状や課題、中小企業向けの支援策がよくわかります。
もちろん、毎年「起業・創業」についても多くのページが割かれていて、政府が「起業・創業」に力を入れているのがわかります。
自身も起業家ながら、起業支援の現場で起業家の相談に日々のっている株式会社オージュ・コンサルティング 代表取締役・大森渚氏が『中小企業白書2023』からわかる起業のヒントについてまとめました。
あらためて『中小企業白書』とは、経済産業省中小企業庁が毎年国会に提出する中小企業の動向を詳細に調査・分析した年次報告書のこと。2023年度版は、2023年4月28日に中小企業庁のサイトで公開されました。
第1部「令和4年度(2022年度)の中小企業の動向」と、第2部「変革の好機を捉えて成長を遂げる中小企業」があり、中でも今回は、第2部第2章「新たな担い手の創出」にある「起業・創業」に注目します。この項目では、「起業の実態や、企業が成長していくために重要となる創業前後における経営者の取組」に言及。これから起業する人や起業家が押さえておきたい内容が書かれているので、毎年チェックしておくとよいでしょう。
「経営者の年代別に見た、起業の準備段階で生じた課題」のデータでは、どの世代も「事業に必要な専門知識、経営に関する知識・ノウハウが不足していた」「資金調達方法の目処がつかなかった」の割合がとても高いですよね。
実際の起業支援の相談現場では、「経営の知識が全然ないけれど大丈夫…!?」「経営について、全部理解しなくちゃダメなの?」と不安になっている方、二の足を踏んでいる方が、本当に多いです。
でも、法律や会計に関する知識は、最初は無くて当たり前。まずは食べず嫌いせずに触れてみて、不安を払拭しましょう。
最低限の知識をつけるなら、自治体や金融機関の創業セミナーがおすすめ。無料またはお手頃な受講料で創業に必要な経営に関する知識を一通り学ぶことができます。
もちろん、セミナーでカバーできないこともあるので、個別にわからないことがあれば、自治体や商工会・商工会議所の専門相談を使ってみるのもおすすめです。
資金調達については、事業計画書をしっかりと作成することで、希望通りの融資を受けられる可能性が高まることが、他のデータでも確認できます。
引用:2023年版「中小企業白書」第2-2-61図 経営者の年代別に見た、起業の準備段階で生じた課題
「経営者が創業時に身につけていた能力・強み」「売上高成長率の水準別に見た、経営者が創業時に身につけていた能力・強み」のデータからは、「業界に関する知識・経験」「リーダーシップ」「取引先拡大に向けた営業力」が起業時に有益なことがわかります。
業界に関する知識・経験
今まで働いていた業界から独り立ちする形の起業はとても多いです。今まで働いてきたのと同じ業界の場合、知識や経験のほか、その業界での人脈が生かせるのも強いですね。
ただ、今まで働いていた会社と競合してしまう可能性があるため、雇用契約書の競業避止義務に抵触していないか確認するとともに、ターゲットやエリアを変えるなどして、競合しないように工夫することが重要です。
リーダーシップ
リーダーシップは、チームを作って仕事をする場合、従業員を雇用する場合には必須です。今までの上司の指示の出し方や、自分がどのように部下と接してきたかを棚卸ししてみましょう。経営者仲間ができれば、どのように従業員と接しているのか、見たり聞いたりしてみるのも勉強になります。
取引先拡大に向けた営業力
創業時に、自社の商品・サービスについて一番熱く語れるのが創業者自身。なので、創業当初は創業者自身がトップ営業マンとして動くケースはとても多いんです。
マーケティング能力
加えて、注目したいのが「マーケティング能力」です。「営業力」「リーダーシップ」と並んで、成長率の高い企業と低い企業で差が大きい項目です。
「マーケティング能力」は「売れる仕組み作り」をする能力。市場の変化や顧客ニーズを読み取って商品開発やプロモーション活動に活かすスキルです。
世の中の動きがどうなっているか、お客様が何を欲しているかなど、常に目を光らせておくことが大切ですね。
引用:2023年版「中小企業白書」第2-2-63図 経営者が創業時に身につけていた能力・強み、第2-2-64図 売上高成長率の水準別に見た、経営者が創業時に身につけていた能力・強み
創業時、一緒に働いてくれるのはどんな人材が望ましいでしょうか?
「創業期に確保した重要度の高い人材」でデータでは、「経営者を補佐する右腕人材」「営業・販売に長けた人材」「定型業務を行う人材」が多いですね。
日々意思決定をしなくてはならない経営者。身近にいて、経営者と同じ目線でものを見てくれる人の存在は貴重です。経営者が情熱的な性格であれば、冷静に考えてくれる人。経営者が感性の人であれば論理的に考えてくれる人。そんな人がいれば、偏りのない、バランスの良い判断ができる可能性が高まります。家族や同僚などに「右腕人材」がいないか見渡してみましょう。
その他、経営者が技術力やクリエイティビティで勝負する人なら、外を回って営業してくれる人、経営者がプレイヤータイプであれば、日々発生する定型業務をサポートしてくれる人がいれば、良い役割分担ができます。
引用:2023年版「中小企業白書」第2-2-68図 創業期に確保した重要度の高い人材
「創業時に実施した差別化の取組内容」と「創業時に実施した差別化の取組内容別に見た、売上高成長率の分布」のデータからは、創業時にどんな差別化を図れば、売上が伸ばせるのかが読み取れます。
創業時に実施した差別化の取り組みとしては、「製品・サービスの高機能化」「類似のない新製品・サービスの開発」のような商品開発面が多いですね。それに対し、売上高成長率の高い企業の取り組みとしては、「EC 等の新たな販売方法の導入」「価格帯で差別化された製品・サービスの販売」など販売面の取り組み、「特定顧客向け製品・サービスの開発」「用途・デザイン・操作性で差別化された製品の開発」など顧客視点を取り入れたニッチな商品開発に関する取り組みが目立っています。創業前からターゲットニーズの把握や、ターゲットに効果的にアプローチする販売方法を検討することが必要なのがわかりますね。
引用:2023年版「中小企業白書」第2-2-74図 創業時に実施した差別化の取組内容、第2-2-75図 創業時に実施した差別化の取組内容別に見た、売上高成長率の分布
以上、『中小企業白書2023』からわかる、起業のヒントでした。
一見とっつきにくい『中小企業白書』ですが、少しだけ身近に感じたのではないでしょうか?
今回の内容を少しでもみなさんの起業準備に役立てていただければと思います。