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起業における副業人材の必要性と注意点

今 洋佑

株式会社ツクリエ 顧問|合同会社夢と誇りのある社会づくり研究所 代表

2007年内閣府入府。文科省出向時に産学官連携・大学発ベンチャー政策を担当。 福井県大野市副市長、ソフトバンクグループ(株)等を経て、2020年「夢研」を設立し独立。 (一社)Carrying Water Project代表理事、CWP GLOBAL株式会社代表取締役、福井県政策企画コーディネーター、金沢大学客員准教授など、産学官の垣根を超えた活動を展開。

スタートアップと副業希望者のニーズはマッチしやすい

新しい会社を設立し、事業を始めようとすると、一緒に動いてくれる仲間が必要になります。
経営者であれば誰もが、できるだけスキルフルで優秀な人材にジョインしてもらいたいと思うでしょう。しかし、そういう人材ほど十分な報酬を与えられるかが重要です。

また、世間では「人材が流動化し、転職やフリーランス活動のハードルも下がっている」とよく言われています。
しかし、まだ多くの人材は企業に属しています。組織の中でキャリアを積み上げているのが一般的です。
特に地方部においては、就職先の選択肢が限られ、人や地域など様々な関係性の中で社会人生活の枠組みが規定されることが多いものです。
スタートアップに参画してもらいたい人材を見出し、実際に仲間になってもらうハードルはまだまだ高いといえます。

一方で、企業や組織に属している方々の中にも、本業以外の活躍場所を探している方は少なからず存在しています。
「別の立場・場面で力を試したい」
「様々な経験を得て職業生活を豊かにしたい」
そのようなニーズへの回答の一つとして、ここ数年で“副業の推進”がかなり積極的に行われるようになってきました。

この、「スタートアップ側の人材ニーズ」と「人材側の副業ニーズ」は、内容的にとてもよくかみ合うと感じています。
企業においてすでに鍛えられてスキルと経験、何より社会人としての常識を身に付けている人材は、生まれたてのスタートアップにとって貴重な戦力です。

特に、管理業務や一般的な事務業務など、実際には一定以上の経験や訓練が必要なもの。
派手ではないが組織には欠かせない事務を高いクオリティで担ってくれる人材は、どのスタートアップにも必ずほしい人材です。しかし、意外と見つけるのが難しいのではないでしょうか。
それでいて副業であれば、実際の労務管理や本業に見合うだけの報酬を支払うなどの負担を負うことなく、活躍いただくことが可能です。

また、人材側にもメリットがあります。
スタートアップでの経験は新規事業の創出に向けた知見となったり、異なる世代との交流、時代の先端に触れる刺激を得られるなど、とても刺激的でかつ有意義な副業経験となる可能性が大いにあります。

地方における副業人材の活躍シーン

この感覚は、私自身が新しい組織を立ち上げて活動をする中でも大いに感じられたことです。

私の本業は、自分の会社での政策プロデュース・コンサルティング業です。これは完全に一人で行っています。
他方で、同時に、福井県大野市での勤務時代の活動を土台として、水を通じた地域活性化や国際交流、人材育成、産業振興などをビジネス的な側面から進めるため、一般社団法人と株式会社を設立しています。

これらの団体の立ち上げ時には、専従の社員は一名もおらず、メンバーはすべて副業として参画していただいていました。
その甲斐あって事業がだんだんと進み、現在では代表を務める株式会社で一名の方に、専従の社員として入社いただけることになりました。

その他のメンバーも、それぞれの分野で一流の方々ばかりです。とても楽しんで、また日々の業務と異なる刺激を得られると、役立てていただいているように感じます。

特にこのようなソーシャル分野での活動は、ビジネスモデルの構築が難しい、マーケットの規模が小さい、あるいはまだ形成されていないなどの理由で、事業が軌道に乗るまで期間を要することが多いです。
今回のやり方を通じ、安定した本業を持っている人材を集めたからこそ、その中でも活動を継続でき(生き延び)、じわじわと事業を発展させられている手ごたえを感じています。

それは、一般的なスタートアップで想定されるような事業展開のスピード感とは異なるかもしれません。
しかし、新しいことを始めるにあたっては様々なやり方があってよいと思います。さらにそれが副業を希望される人材のニーズを満たす意義があれば、このような人材活用がもっと広まってもよいのでは考えています。

今回のケースでは福井県大野市という典型的な地方部に本店を構えての取組です。メンバーは全国に散らばって活動してはいますが、地方における副業のモデルケースの一つとして見ていただけることがあれば、それもまたありがたいことです。

副業人材を活用する上での注意点

このように、スタートアップと副業人材とのマッチングが持つ可能性は、様々な側面から大いに期待できるものです。
一方、難しい面ももちろんあります。

最も難しいと思うのは、やはり組織文化の違いでしょうか。
スタートアップの何も揃っていないドタバタの状況を、企業でしっかりと(まっとうに)キャリアを歩まれてきた方々が飲み込んでくださるかどうか、という面です。
ある意味で大きなカルチャーショックを受けることを良しとするかどうか、という言い方もできるかもしれません。
リソースに限りがあることや、対外的な信用に乏しいことなど、スタートアップが持つ難しさを踏まえつつ、一つのチャレンジとして楽しんでいただける、あるいは事業内容に意義を感じてコミットしていただける、そんな方々に副業として参加いただけると、とてもよいマッチングになります。

また、もう一つの側面として、スタートアップでの事業立ち上げはとても負荷のかかる仕事です。
何か土壇場の場面において、副業人材が本業を優先して抜けてしまうことがあると目も当てられません。急な発注や依頼があった際に、「本業が忙しいので対応できません」ばかりでは、信用とチャンスを失ってしまいます

そのため、どれほど頼りがいがある方であっても、副業人材はあくまで副業であると意識しましょう。
組織全体でどのようにリスクヘッジを取るのか(どのような仕事を任せるのか、どこまで経営者自身でフォローできるのか、など)を経営方針・人事方針としてシビアに考えた上で、副業人材を求めることが必要です。

このような課題・注意点を踏まえつつ、スタートアップ側、副業人材側双方の立場に寄り添って、スムーズなマッチングの支援を行うサービスのプラットフォームがあれば、さらに潜在的な需要を掘り起こせる可能性が、十分にあると考えます。
副業をしたい人材と、優秀な人材が欲しいスタートアップの双方が幸せになり、結果として国全体の経済が活性化し、さらには社会課題の改善につながるよう、スタートアップにおける副業人材の活用がさらに広まっていくことを期待します。

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