起業支援ラボ

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職業としての起業支援家

起業家と起業支援家の狭間で見えること~起業支援側が提供できる価値とは?~

起業支援のコミュニティマネージャーが日々何をやり、起業家や将来の起業家を前にどんなことを考えているのか。 筆者は、起業支援施設でコミュニティマネージャーをする起業支援家ながら、複業でECサイトを運営する起業家でもある。 起業家と起業支援家の両方の視点から、起業支援で行われていること、コミュニティマネージャー1年生が感じていることを紹介する。

渡邉 駿

株式会社ツクリエ コミュニティマネージャー

メーカーや広告代理店などで営業を経験後、趣味のサーフィンやビーチクリーンを通して知った海のゴミの多さを伝えるため、2021年7月にアパレル商品を中心としたサステナブルブランドを地元・湘南で立ち上げ独立。 2022年2月ツクリエ入社。現在、水道橋にあるツクリエ直営の入居型インキュベーション施設でコミュニティマネージャーとして週5日働きながら、「海×湘南×環境」をテーマにした同ブランドのオンラインショップを複業で運営。その他、行政等の起業プロジェクトに関わる。

起業家の光と影を知るつもり

「起業支援ってどんな仕事? 何するの? コンサル?」

自分の仕事を説明するときによく聞かれる質問だ。
未だに起業支援の全貌をうまく説明できない。「起業に関するノウハウ、アイデアを事業化し、経営の基盤を築くサポートをする」というのが一番わかりやすいかもしれない。

起業支援側には、インキュベーションマネージャー(IM)、コミュニティマネージャー(CM)など、いろいろな役割がある。
私は、コミュニティマネージャーとして、インキュベーション施設で起業家と日々接する、起業支援の“何でも屋”と自分を定義している。それくらい守備範囲が広い。具体的には、イベント・セミナーの企画や施設の管理・運営、SNS運用や利用者のフォローなど。「起業支援」側が提供できる価値を探っては掘り起こしている最中だ。ただ、どの役割でも日々起業家、起業準備者の方々とコミュニケーションを取っていることだけは間違いない。
起業家や起業を志す人は、熱量が高く、パワフルな人が多い。彼らにはぶれない確固たる「芯」と、実現したい世界に向けた情熱と行動力があり、とても格好良く見える。

起業は明るい側面だけでなく、大変なこと、暗い側面も間違いなくある。むしろ、後者が多い。何もないところからすべてを決めて進むしかないのだから、当然といえば当然。時には「本当にうまくいくのか?」と不安になり、眠れない夜もあるだろう。それでも、不安と向き合いながらあきらめずに動き続ける姿勢は、やはり格好良い。

とはいえ、起業しない方がいい2つのパターン

起業家が格好良く見える話をしてきたが、選択肢としての「起業」を常に持っておくのは素晴らしい一方、まだ起業しない方がいいのでは?という人もいる。
それは、「起業がゴールになっている」人と、多くの起業相談にのってきた上での肌感覚だが「やり切ることができなさそう」と感じる人だ。
好きなことを事業にしたい、社会課題を解決したい、有名になりたい。起業の目的はどんな理由でもいいが、起業自体にもお金がかかる。起業後もお金は必要だ。起業がゴールの場合、起業後は一体どうするのだろう?と心配になる。起業自体は「目的」ではなく、目指す世界を実現するための「手段」。起業後、いざというときにお金がなくなり、やりたいことができなくなれば本末転倒だ。

もう一つの「やり切ることができなさそう」な人は、「こんなアイデアがあるんです」以外の具体策が描けていない場合が多い。起業をすると、そのアイデアで顧客を満足させ、お金を稼ぐ必要がある。大げさかもしれないが、起業はそのアイデアで生きていくということ。ピボット(方向転換)も時に必要だが、特に少しでも顧客がいる場合は簡単に方向転換できない。あきらめずやり切るために、そのアイデアで稼ぐ方法をしっかりと考える必要がある。もちろん、壁打ちや起業相談等をふんだんに活用してもらうためにわれわれが存在しているのだが、実際に行動するのは起業家本人のみ。そんな、あまりにもアイデアが初期段階の人にはアイデアを整理するプログラムを勧めることもある。

起業経験があるからこそ見えること

この視点を得たのは、私が起業時にお金がどんどんなくなる経験をしたから。私の場合は、サステナブルブランドのECショップを小さく始め、幸いなことに初月から売上が立ち、すべてを自分で決定できる楽しさややりがいを感じていた。とはいえ、準備金を含め、お金が出ていくスピードのほうが速く、頭の中に常にお金の不安が付きまとった。
事業を運営する上で、「お金は血液」だと身をもって実感している。自身が起業した経験があることで、資金で苦労する起業家の気持ちは分かる部分があり、起業支援側にいる今は、関わった起業家にはどんな形であれ最後は納得して行動してもらいたく、資金が尽きて夢半ばであきらめざるを得ないのだけは避けたい。

起業支援側となった今、自分の起業時を振り返ることがままある。
なぜ起業したのか? 私の場合は目の前に実現したい世界と解決したい問題があったからだ。趣味でサーフィンをし、ビーチクリーンを頻繁にする等、海と関わる時間が増えたら、海ゴミの課題が自分事になり、何とか解決したいと起業を決意した。
休日のたびのビーチクリーン活動に限界を感じ、より多くの人が海ゴミの問題に関心を持つゴミ拾い以外のアプローチの必要性を感じて、一般向けの啓蒙ブランドを立ち上げた流れだ。実は起業がしたかったわけでも、今の商品・サービスを提供したかったわけでもない。起業は手段だった。

今も想いは変わらないし、仲間に助けられながらブランドを成長させるための活動を継続しているが、走りながらやっているのが正直なところだ。
自分の起業時は、インキュベーション施設や起業支援という言葉すら知らなかった。知っていたら、起業してやりたいことを実現する速度や濃度が違っていたのではと思う。
支援側になった今、自分に言い聞かせている感もあるが、「まずは事業計画を作りこみましょう」と言うことが多くなった。

起業支援家の苦悩とやりがい

小さいながら事業を始め、たくさんの人に支えられてきたことから「起業支援」に興味を持ったが、現場にいるととても難しい仕事と感じる。それは、「これをすればOK」「起業支援=〇〇」という明確なものがないからだ。支援内容は対象となる相手、事業内容、考え方やタイミングなど色々な要素によって変わってくる。冒頭でうまく説明できないと書いた理由はここである。

そんな正解がない中で、起業支援施設のコミュニティマネージャーとして起業家や将来の起業家に「何が役立つか」を常に考えている。日々の雑談から話を聞いては自分が役に立てるポイントを探す。それはニュース記事の共有かもしれないし、人と繋ぐことかもしれないし、話相手として壁打ちをすることかもしれない。
自分が多くの人に助けられて起業してきた分、動き出そうとする人を応援したい。起業家と同じように走り続け、自分のスタイルを見つけ、起業家と共に成長していきたい。それが起業支援に携わりはじめた今、感じていることだ。

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