Theme
起業家教育
公開日:2022.12.20
小学生~社会人のキャリア支援に携わりながら、創業支援施設で起業支援を行う筆者は、キャリア教育と起業支援に多くの共通点を見出している。その共通点が見えるからこそ、起業家教育と、起業家育成は必ずしも同じゴールではないと唱える。教育現場で行われているキャリア教育の現状から、起業家教育を考えてみる。
起業支援。そんな業種があることすら知らなかった約2年前。転職サイトでその存在を知りました。それまでの数年間、社会人や大学生のキャリア支援をしていた私は、起業支援の業務内容を一目見て、「キャリア支援に通じるものがあるのではないか?」とワクワクしたのを覚えています。
縁あって創業支援施設のコミュニティマネージャーに従事し始めてからは、予想通りと予想外はあるものの、起業支援とキャリア支援の共通点を実感している日々です。元々、キャリアの分野で子ども向けの教育に課題を感じていたこともあり、起業支援者として起業家教育に興味を抱くのは、ごく自然なことでした。
今回、起業支援とキャリア支援の双方に携わる人間として、起業家教育が子どもたちのキャリアにどのような意義をもたらすのかを言語化してみます。
私の感覚では、起業家教育はキャリア教育の中に存在する一つのジャンルです。キャリア教育の目的はいろいろありますが、大枠では「自分の価値観」や「将来の選択肢の広がり」に気付くことと定義づけられます。起業家教育は、それらに気付く一つの手段といえるのではないでしょうか。
具体的には、私が考える起業家教育は、「自分には何ができるのか」「どんな世の中になってほしいか」「世の中にはどんなモノやコトが求められているのか」を考える時間を提供するものです。子どもたちは、起業家教育を通じて、世の中を見渡す視野を広げることができます。
世の中を見渡すことによって気付くであろう「自分の価値観」は、自律的で満足度の高い人生を歩む上での道標となります。起業家、会社員、あるいは他のどの道を選んだとしても活きることでしょう。
起業家教育と起業家育成が混同されがちですが、起業家教育は、あくまで社会と自分の繋がりを意識するきっかけであって、未来の起業家を育てることを目的にしなくてよいと考えています。
2020年度、教育現場に新たに取り入れられたキャリア教育の仕組みに、「キャリア・パスポート」があります。小学1年生から高校3年生の12年間に渡り、様々な視点で自分のキャリア観を見つめた記録を残していくものです。キャリア教育というと、身近な仕事の内容を調べたり、どの職業に就きたいかを考えたりといった職業教育のイメージが強いかもしれませんが、実はそれだけではありません。
自分のことを理解し言語化することも重要な要素となります。自分がどんな人間なのかを理解していないことには、将来、自分に合った生き方や働き方を選ぶことができないからです。教育現場では、キャリア・パスポートの取り組みを通じて、将来を見通す力や情報を取捨選択する力といった「生きる力」を身につけていくことを目指しています。
私が、大人や大学生のキャリア支援をしてきた中でショックを受けたことがあります。それは、「働くこと=辛いこと」と捉えている方が少なからずいる事実でした。民間企業が実施した中高生を対象とした調査では、6割以上の中高生が将来に不安を抱いているとの結果になりました。同調査では、大人に対して「大変そう」「疲れている」とのイメージを抱いている中高生は、実に8割にものぼっています。
子どもたちにこのような印象を与えているのは、他でもない子どもたちの周りにいる大人たち。そんな大人に囲まれて育った子どもたちが、働くことにネガティブな印象を抱くのは無理もありません。逆説的には、イキイキと働く大人たちに囲まれた子どもたちは、大人になるのを楽しみにできるはずです。様々な働き方や生き方をしている大人との関わりが、子どもたちのキャリアを豊かなものにするのです。
キャリア教育も起業家教育も、まだ一部の人から注目され始めたばかり。私は、教育現場で始まったこれらの取り組みが、教員主体で進める仕組みになっていることに危機感を感じています。キャリア教育はキャリアコンサルタントへ、起業家教育は起業支援者へというように、より専門的な知識を持つ外部人材が積極的に活用されることを期待しています。
いま、私自身のキャリア軸は「キャリアコンサルタント×起業支援者」としてイキイキと働ける人を増やしていくことにあります。特に、子どもたちが自分自身と世の中の関わりを意識するきっかけとなる“場づくり”に、末永く携わっていきたいです。