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【起業家教育の現場から】はじめに~なぜそれほどまでにアントレプレナーシップ教育に熱をあげたのか?~

今後需要の増加が予想される起業家教育。起業家教育の現場ではどんなことが行われ、学生はどんな反応を示しているのか? 現在、大阪公立大学ほかでアントレプレナーシップ教育に携わる筆者が、アントレプレナーシップ教育とは何か、アントレプレナーシップ教育が必要とされている理由、目指すべきゴール等を現場の事例とともに紹介するシリーズ連載。 「はじめに」では、筆者が起業家教育に携わることになった経緯ともに、起点となった思いを綴った。

林 宣伶(イム ソニョン)

株式会社ツクリエ アントレプレナーシップ教育担当|大阪公立大学 特任助教(アントレプレナーシップ教育、システム思考)

2003年ソウル大学(韓国伝統音楽専攻)卒業、2020年慶應義塾大学大学院 SDM研究科修士修了。伝統音楽教師、大韓航空グランドスタッフ、千葉大学先進的マルチキャリア博士人材養成プログラム事務職、信州大学助教・UniversityResearchAdministratorを経て現職。現在、大阪公立大学でアントレプレナーシップ教育担当として大学生向けにプロジェクト型ラーニングプログラムを企画実施するほか、株式会社ツクリエでアントレプレナーシップ教育・研修プログラムの設計を行う。前職の信州大学では、国際学術推進制度策定、大型産学官連携研究プロジェクト、異分野研究ワークショップ、産学官コーディネーター向けワークショップ設計、高校生向けシステムデザイン思考を用いた課題探求型教育に従事。その他、NPO法人Sharing Caring Culture理事、knots associates株式会社システムデザイン/価値創出研修支援スタッフ、カスタマイズした教育研修プログラムを提供する「Imusha」代表。

本記事を目にしている皆さんは、アントレプレナーシップ教育に何らかの興味を持ち、関わりを持っている方かと思います。

私がアントレプレナーシップ教育に関わりを持ち始めたのは、平成26年度の文部科学省によるグローバルアントレプレナー育成促進事業EDGEプログラム(Enhancing Development of Global Entrepreneur Programの略、平成26年度~28年度)に応募した、約8年前になります。同プログラムは、「我が国におけるイノベーション創出の活性化のため、大学等の研究開発成果を基にしたベンチャーの創業や、既存企業による新事業の創出を促進する人材の育成と関係者・関係機関によるイノベーション・エコシステムの形成を目的」とし、「専門性を持った大学院生や若手研究者を中心とした受講者が起業家マインド、事業化ノウハウ、課題発見・解決能力及び広い視野等を身につけることを目指し、受講者の主体性を活かした(アクティブラーニング)実践的な人材育成の取組みへの支援」を行うものです。
その時、私は地方国立大学で産学官連携研究推進に努めながら、大学の研究技術の社会実装を加速する方法として、大学発ベンチャーに関心を寄せていました。

EDGEプログラムの公募が開始しされ、当時一緒に取り組んでいたチームメンバー2人と共に、アントレプレナーやアントレプレナーシップとは何か、海外ではどのようなアントレプレナーシップ教育をしているのか、必要とされる人材像はどのようなものか、どのように教育すればいいか議論を重ねました。

結果は最終審査で不採択でしたが、提案内容のコンセプトを考え申請を準備する間、チーム3人の議論が熱くなり夜11時まで続く日も多く、私たちがオフィスの戸締りをする日々でした。

不採択になった理由は、産学官連携を主な業務にしている私らは教育を行う部署ではなく、リソースの不十分、若手のみのチームメンバー、起業に精通する専門家ではないなど、力不足であることが審査側にも見えていたのだと推察しています。
私たちも不採択結果にがっかりしながらも、どこかでほっとしていました。

それなのに、なぜそれほど興奮しながら無謀にアントレプレナーシップ教育に熱をあげていたのか。
それは、自分たちが受けて来た教育への不満の大きさと比例するものでした。

チームメンバーそれぞれが少し変わり者で、同調圧力のある文化、一律な評価基準、なぜ?を考えさせてくれず、解き方も指定されている学習内容、評価基準に合致する一部の生徒・学生以外は負け組、決められた正解以外は間違えであるという指摘、理由の説明なく従うことを強要される校則など(きわめて個人の経験と解釈によるものです)、自分たちが受けてきた学校教育への不満が大きく積もっていました。

アントレプレナーシップ教育が実施・普及されることで、自分ならではの視点を持ち表現すること、間違えるとしても自ら考えてみること、実際にやってみながら学ぶことが良いとされ、ひとり一人の個性が尊重される文化を信じていました。
アントレプレナーシップ教育を通じて、教育の改革を加速していきたかったのです。

その思いは8年が経った今も変わっていません。
むしろ、社会構造や文化を醸成するマインドを育むことこそが、すぐにでも起業をしたい学生を集め起業のHowを教えるより、本質的に必要なアントレプレナーシップ教育だと思っています。

文部科学省の調査「アントレプレナーシップ教育の現状について」 (2021年8月2日修正)、によると、日本で起業が少ない最大の理由は、「失敗に対する危惧」(再チャレンジへの難しさ)をあげています。
失敗を恐れずに挑戦できる人材、失敗からの成長が評価され、再チャレンジができる社会を作るマインドと文化醸成が必要です。

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