起業支援ラボ

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職業としての起業支援家

【起業をめぐる哲学】起業支援は必要か?

鈴木 英樹

株式会社ツクリエ 代表取締役

商社、コンサル会社を経て、2002年大阪市の起業支援施設に勤務、以後インキュベーション業務に係る。
2006年テクノロジーシードインキュベーション(株)(TSI)入社、2009年TSI取締役、 2015年(株)ツクリエ設立、代表取締役就任(現任)。
ファンド運営、投資育成、起業施設運営を多数手がけるとともに、自らもベンチャー立ち上げと経営を複数経験。

起業は必要。では“起業支援”は必要か?

起業は必要である。市場経済において、企業は絶えず生成と消滅を繰り返すもの。産業の新陳代謝を促すためには、新しい企業が産まれ続ける必要がある。
では“起業支援”。これは必要か?20年前から何度も考えている。もちろん、起業支援を生業にしている立場から、結論としては必要と言いたい。
その都度「なぜ必要か?」の結論は違うが、原点に立ち返ってこの問題を考えてみるのがとても好きだ。今いちど、この問題を考えてみた。

まずは不要論。起業支援を狭義でとらえ、“起業支援の専門家による支援”とするならば、不要と答える方は多いだろう。

「優秀な起業家は支援がなくても成功する」
「起業支援を受けたことはない」

成功している起業家に聞けば、多くの方がこう答えるのではないか。
ただ、起業支援の専門家から支援を受けたことはなくとも、家族や友人などに悩みを相談したことはあるだろう。
それでは、適切な相談相手がいれば起業支援は要らないのだろうか?起業支援の専門家、つまり職業としての起業支援家は不要なのか?

国の起業状況を評価する“起業品質”という指標

指標に沿って考えてみよう。その国の起業状況を評価する指標としては、“開業率”、“存続率”、そして“成長率”がある。

・どれだけたくさん起業・開業したか=開業率
・どれだけ継続しているか?=存続率
・どれだけ利益を出し雇用を生んだか=成長率

私はこの3点セットをまとめてその国の“起業品質”と勝手に呼んでいる。今回は“成長率”における起業支援の意義を考えてみる。

成長率の一端を表すものとしてユニコーン企業の数を見てみよう。ユニコーン企業とは「10年以内で未上場のベンチャー企業のうち、10億ドル以上の市場価値がある企業」のことである。
現在(2022年10月)、世界中に1,100社以上のユニコーン企業が存在すると言われている。そのうち、日本の企業は10社だ。日本は圧倒的にユニコーン企業が少ない。

経済産業省政策新機軸部会2022年2月16日資料

なぜか。グローバル意識が足りない、エコシステムが不十分、プレシード・シード期のリスクマネーが不十分……足りない点はいくらでも挙げられるだろう。

日本が世界で勝負できるもの 価値の源泉はクリエイターと技術者

では、日本が世界で勝負できるものは何だろうか。私はクリエイターと技術者だと思う。
日本のクリエイターが生み出すアニメ・マンガ・ゲームは世界中で楽しまれている。日本のポップカルチャーは、日本人である私たちが思う以上に世界で愛されているのだ。
しかし、世界のコンテンツ産業が拡大の一途を辿る反面、日本はその海外での高い人気を経済的利益に転換できていない。

技術についても同様である。国内の研究者や技術者のレベルは総じて高い。日本の2019年における特許出願数受理件数は、アメリカについで世界第3位だ(307,969件)。
ただし、日本は特許出願数は多いものの、大学発スタートアップの設立数は少ない。つまり技術があっても事業化ができていないのだ。

経済産業省政策新機軸部会2022年2月16日資料

クリエイターや技術者の能力と経営者の能力は別

クリエイターや技術者は、ものをつくることは得意だ。彼らは人を感動させ、イノベーションを起こす価値の源泉を生み出すことができる。
しかし、ビジネスは苦手という人が多い。クリエイターや技術者としての能力と、経営者としての能力は別物である。

ホンダしかり、ソニーしかり技術者と経営者のコンビができていた。
技術者だけでは、生み出すものの潜在能力を十分な経済価値に変えることができないのだと思う。
だからこそ、日本こそ、起業支援が必要だと思っている。価値の源泉を事業に換えるエコシステムが必要だと思っている。

起業支援で最も重要なのは、経営チームをつくるまでのサポートだ。
良き経営チームができるまでは、起業支援者は良き相談者、もっといえば経営者代行としてクリエイターや技術者を支えることができれば理想的だと思っている。それは起業支援の専門家でないとできない。
私はそういう起業支援家になりたいし、そういう起業支援会社をつくりたい。

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