起業支援ラボ

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職業としての起業支援家

【起業をめぐる哲学】起業支援におけるリアルの価値 「近い距離感」と「客観性」

ほぼすべてオンラインで代替できる時代の、起業支援におけるリアルの価値は何か? 答えのない問いを考えてみる。

鈴木 英樹

株式会社ツクリエ 代表取締役

商社、コンサル会社を経て、2002年大阪市の起業支援施設に勤務、以後インキュベーション業務に係る。
2006年テクノロジーシードインキュベーション(株)(TSI)入社、2009年TSI取締役、 2015年(株)ツクリエ設立、代表取締役就任(現任)。
ファンド運営、投資育成、起業施設運営を多数手がけるとともに、自らもベンチャー立ち上げと経営を複数経験。

起業支援家は、起業家に必要とされてなんぼ

起業支援はすべてオンラインでできるか? 答えはYesであり、Noでもある。
なぜYesか。起業相談やイベント、プログラム運営、マッチングなど、起業支援業務はオンラインでできる。できるか否かでいえば、できるのである。

なぜNoか。十分ではないのだ。例えば起業相談。情報は提供できるが、相談者が持つ雰囲気、抱える悩みの深刻さまでを十分には感じ取れない。リアルに比べ、70%程の情報しかオンラインでは感じ取れないと経験則では感じる。例えばイベント。交流会はリアルの方が圧倒的に盛り上がる。

起業支援はサービス業だ。情報提供屋であり、課題解決屋でもあるが、それ以上に起業家に必要とされてなんぼの人気商売。水商売に通じるものもあると思っている。

そんな視点で起業支援におけるリアルの価値を考えてみる。

その支援に熱意はあるか?

2022年2月東京都が「スタートアップ協働戦略ver.1.0」を取りまとめた。未来の東京をスタートアップと共創するための戦略が書かれている。
一番面白いと思ったのが、アンケート結果。スタートアップに、協働の仕組みを構築するために必要なものは何かを聞いたところ、一番多かった回答が「都の担当者が協働に向けて熱意を持った姿勢でいること」で46.3%もいた。

知情意という言葉がある。人間の三つの心「知性、感情、意志」。
数学者の岡潔氏はある対談でこう言った。

「ともかく知性や意志は感情を説得する力がない。ところが、人間というものは感情が納得しなければ本当には納得しないという存在らしいのです」。

知性の塊のような人がこんなこと言うのか、と驚いた。
つまりはそういうことだ。

非効率性の価値

起業支援には、熱意、感情が重要で、それを伝えるにはオンラインよりもリアルに分がある。それは距離と時間で説明できる。距離とはその空間を共にする物理的距離感。これが近いことにより熱気や雰囲気を五感で感じ取ることができるという利点。もう一つは時間。その人に会うために身だしなみを整え、移動時間をかけてわざわざ会いに行くという時間を犠牲にした非効率な行為を伴うことが、相手に熱意や誠意を伝える一助となる。

人間は合理的なものや効率的なものに対し、頭では理解できても感情を動かされない。つまり腹に落ちない。むしろ非効率で非合理なものに感動しやすい。感動は効率と反比例するといえる。腹に落ちるというのは、知性でなく感情で納得するということだ。

起業支援に必要なのは、「近い距離感」と「客観性」だと思う。ここでの距離感とは、物理的距離感でなく心理的距離感で、信頼関係や人情味を意味する。客観性とは知性のこと。近い距離感を築くためには、リアルが必要だ。

真の起業支援とは、知情意で起業家をサポートすることだと思っているし、中でも一番重要なのは、情なのである。

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