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地方における起業支援に欠かせない1つの視点

地方における起業支援において、欠かせない視点は何か? 今後、地域経済を支える可能性を持つ新しい企業にどんな手を差し伸べたらよいのか? 福島県南相馬市にある「ゆめサポート南相馬」の事例をもとに、地方の起業支援で求められていることを考察します。

今 洋佑

株式会社ツクリエ 顧問|合同会社夢と誇りのある社会づくり研究所 代表

2007年内閣府入府。文科省出向時に産学官連携・大学発ベンチャー政策を担当。 福井県大野市副市長、ソフトバンクグループ(株)等を経て、2020年「夢研」を設立し独立。 (一社)Carrying Water Project代表理事、CWP GLOBAL株式会社代表取締役、福井県政策企画コーディネーター、金沢大学客員准教授など、産学官の垣根を超えた活動を展開。

地方経済唯一の成長点は、起業

起業支援とは、新しい企業が立ち上がり、成長するように支えていく取り組みですが、その企業の事業成長だけに関わるというものではありません。

特に、地方では地域経済全体の中での起業・創業の意味を意識しつつ、地域経済全体に広い視点を持ち、ときに起業への直接的な支援以外のアプローチも含め、包括的な対策を講じることが重要です。

地方における地域経済は基本的には、定常状態の維持が指向されるもの。
その中で、地方経済で唯一の成長点となり得るのが、スタートアップや新規事業などの起業・創業です。

「成長点」という言葉は、植物の中で細胞分裂が盛んな部分を指して使われるもので、例えば、木の先端の芽の部分や根の先、これから伸びていく部分を指します。
地域経済は、例えるなら、古くからそびえたつ大きな樹木のような存在。枝葉は長い歳月によりしっかりと構成され、そこで葉をつけ、実がなり、落葉するというサイクルを繰り返し、樹木としての形を維持しています。まずは枯れることなく、樹木として立ち続けることが何よりも大切です。

とはいえ、環境がいつ変化するかわかりませんし、古くなった枝が折れたりすることもあります。わずかでも成長点が残っていないと、生存競争に負けてしまうかもしれません。
その成長点として重要なのが、新しい企業であり、新しい事業です。

つまり、地方で起業支援をするということは、その地域経済全体の未来をつくっていくことなのです。

より広い視野で地域経済のために何ができるのか

ツクリエ社にとって、その試金石となる可能性がある事業が、昨年度取り組んだ南相馬市「ゆめサポート南相馬」に係る調査事業でした。

「ゆめサポート南相馬」は、南相馬市や地元の経済界の出資によって設立された第三セクターの株式会社。地域企業の新規事業の育成支援、販路開拓、経営への助言、創業支援、技術開発支援など、トータルなサポートを任務としています。

このゆめサポート南相馬の業務全般について今後どのような形で強化していくべきか、地域の企業や関係者等からのヒアリングを行った上で提言するのが、昨年度取り組んだ調査事業でした。

具体的には、地域の中小企業や近年進出してきたスタートアップ企業、地域企業へのサポートを行う各種団体など、20件近くのヒアリング・打合せを行いました。地域経済における起業支援の重要性に加えて、既存の企業が行う新規事業の立ち上げや実施への支援ニーズも数多く存在することや、その両方に対してゆめサポート南相馬からの支援が必要とされていることが示唆されました。

このような調査を通じ検討を重ねた結果、起業支援にとどまらず、地域企業の活動全般、さらには市役所が設計する地域経済振興政策への知見の提供までも視野に入れた、幅広い経済活動全般に踏み込んだ調査報告を作成し、提言として提出しました。

地方の自治体や企業からの視点に立てば、会社をつくり育てるという狭義の起業支援にとどまらず、企業が行う多様な活動に資するノウハウが込められた起業支援の活動が求められていることがわかります。

地方でスタートアップ企業を育てるということだけにノウハウを使うのではなく、より広い視野で地域経済のために何ができるのかを検討し、いままでの起業支援にない領域でも、一歩踏み出して提案できるかが、地方における起業支援の鍵です。

走り始めた企業を点として育てるだけでなく、地域経済全体を育てていく自覚、それを実行する機会を逃さないマインドセットが、世の中から求められています。

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