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起業の潮流

活況な日本の大学発ベンチャーの現状と課題~多産多死型のアメリカ、廃業しにくい日本~

近年日本における大学発ベンチャーが、実は右肩上がりに増加しているのを知っていますか?
大学発ベンチャーは、スタートアップ先進国のアメリカが数で圧倒するものの、日本独自の技術を目指している多くのディープテック領域に強みがある点などから、今後日本の国力となり得るイノベーションの担い手として期待されています。
あまり知られていない大学発ベンチャーの現況、日本の特徴と課題をデータから分析します。

大藤 充彦

株式会社ツクリエ 取締役

家庭用ゲームパブリッシャーの開発職/開発責任者を経て、2013年にNHNjapan株式会社(現LINEヤフー株式会社)に入社、経営企画室配属。2014年、同社より分社したNHNcomicoにて、電子コミック事業のマンガアプリcomicoの事業プロデューサーとして約5年従事、世界累計4000万DL以上のサービスの立ちあげ~成長期に携わる。同社在籍中の2015年、現代表の鈴木に誘われ株式会社ツクリエの創業に参画し現任。現在は、スタートアップ向けアクセラレータープログラムやビジコンの企画・運営を主軸事業とするチーム「第2インキュベーションカンパニー」を管掌。中小企業診断士/一級販売士。立教大学 大学院 ビジネスデザイン研究科/博士前期課程(経営管理学/MBA) 修了。筑波大学大学院 ビジネス科学研究群 博士後期課程 (経営学)在籍中。
2019ー2022 あいちスタートアップキャンプ 事業責任者/統括ディレクター
2020 集英社アクセラレータープログラム マンガテック2020 プランニングプロデューサー
2020ー2021 Startpup Hub Tokyo 丸の内 統括ディレクター
2022ー2024 TokyoものづくりMovment 事業責任者
2019ー2022 あいちスタートアップキャンプ 事業責任者/統括ディレクター
2022ー2024 Aich Startup Battle 2024 事業責任者
他、スタートアップ支援事業を多数担当

大学発ベンチャーの現況と考察

近年、大学発ベンチャーの重要性がますます注目されています。
大学は、言うまでもなく先端的な研究と技術革新の中心地です。大学発ベンチャーは、豊かな研究資源を活用して新しい製品やサービスを開発し、市場に新しい価値を提供できる可能性を秘めています。海外をみると、Google やStripe、Meta(Facebook/Instagram)などイノベーションをリードする企業が大学発ベンチャーとして誕生し、世界経済を席巻しています。

※「ベンチャー」の定義・呼称は、厳密には「スタートアップ」は違うとされる場合もありますが、本記事では「ベンチャー≓スタートアップ」ととらえ、両者の意味を包含して大学発ベンチャーと呼称しています。

本記事では、そのような大学発ベンチャーのわが国における昨今の実態、そして大学による支援策などについて考察していきます。

大学発ベンチャーといってもさまざまな分類があり、経済産業省では下記6つのうち1つ以上に当てはまるベンチャー企業を「大学発ベンチャー」と定義しています。

分類の内訳では、「研究成果ベンチャー」(49%)が最も多く、次いで「学生ベンチャー」(27%)の割合が高くなっています。いわゆるディープテックの技術系企業が約半数を占めており、多くの大学発ベンチャーがわが国の科学技術の事業化の下支えをしていると推察できます。

次に、大学発ベンチャーの現在の勢い、趨勢(すうせい)を見ていきます。
下記グラフは、2018年から2023年まで直近6年の大学発ベンチャーの活動企業数の推移を示しています。

大学発ベンチャーの活動企業数は2018年から2023年にかけて右肩上がりで倍増(2,278 → 4,288)しており、近年の大学発ベンチャーは活況です。
大学発ベンチャーに注目が集まり、イノベーションの担い手として知見や可能性の土壌が豊かになることは、今後の日本のイノベーションに確実にプラスの影響がもたらされるでしょう。

日本の大学発ベンチャーは高存続率

続いて、ベンチャー企業数の推移を、「設立数」「存続率」の視点から、スタートアップ先進国であるアメリカと比較して見てみましょう。
この数字から日本の大学発ベンチャーの特徴を垣間見ることができます。

引用:令和5年度 ⼤学発ベンチャーの実態等に関する調査

https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa5_vc_cyousakekka_houkokusyo_r.pdf

アメリカは、設立数こそ日本の約5倍、活動企業数は2倍以上と規模の差には圧倒されるのですが、上表の中で最も顕著に差が表れているのは、設立企業数から活動企業数(増分)を差し引いた「存続率」です。
「米国における大学発ベンチャーの設立状況」の直近5年の存続率は5.5%であるのに対し、同日本の存続率は何と108.7%です。

この数字から推察されるのは
・アメリカは多産ゆえの多死が、ある種のデフォルト。また、同一経済圏の中で生き残れる企業の絶対数は一定程度で決まっているためか、増分があまり変化しない(5年でも5%程度)
・日本は、累計設立数よりも増分が多い。つまり、アメリカとの比較では日本は廃業しにくい環境

といったあたりでしょうか。

こういった数字は、どう仮説を立て何を見るかが重要ですが、大学発ベンチャーにおけるこの数字が、実は日本とアメリカのイノベーションのスピードの差を生む原因を示唆していると推察します。

例えば、アメリカにおける「多産多死」現象は、激しい競争を生き残った企業しか市場にいないことを指し示し、相対的には経営的に優秀な企業しか生き残っていないことになります。
また、企業の新陳代謝のスパンが短いため、残存スタートアップには、常に最新の研究や研究者が供給されていると想像されます。経営のテクノロジーと科学的知見が生き残ったスタートアップに集約され、研究の事業化を加速させているとも考えられそうです。

一方、日本は中長期的な研究開発に強みがあるスタートアップが増加していると考えられます。研究数、事業数も大きく純増しており、スピードでは負けるかもしれませんが、引き換えに事業のバリエーションは拡がっている可能性もあります。

どちらのスタイルも良い面がそれぞれありますが、イノベーションのスピード感や規模感でわが国がアメリカには及ばない理由をこういった数字から読み取ることができます。大学発ベンチャーに知見が集まる、ディープテックに代表される先端技術の世界では、スピードや規模感が圧倒的な優位性を築くのは、さまざまな事例から明らかです。それは昨今、そのまま国の技術力を示すようになってきています。

また、大学発ベンチャーというと、ディープテックや創薬などの前記の表で示したところの「研究成果ベンチャー」を思い浮かべがちですが、「学生ベンチャー」の萌芽も増え始めています。ここ数年、明治大学や武蔵野大学など、大学の学部教育でもスタートアップや起業論などの授業が増加しています。また、東京大学や慶応大学をはじめ、さまざまな形で学生スタートアップの支援施策を講じる大学も増えてきました。

学部での環境変化は、大学発ベンチャーの増加に加え、CEOの若年化に寄与し、若き学生スタートアップを増やすことにつながります。そして、若きイノベーションは世の中を変えていきます。

「スキマバイト」。世にすっかりなじんだこの言葉は、10年前はこの世の中に存在していない概念、言葉でした。この常識を新しく世の中に創造したのは、立教大学在籍時に学生ベンチャーとしてさまざまな賞を受賞していた「タイミー」(2024年7月上場)CEOの小川嶺さんであることは記憶にも新しいのではないかと思います。

課題は経営人材の不足

以上の現況と考察から、活況な大学発ベンチャーが抱える成長のための課題は何かー?
経済産業省「令和5年度 ⼤学発ベンチャーの実態等に関する調査」によると、大学発ベンチャーの多くは技術者=CEOとなっているケースが多く、事業を伸ばすための専門経営人材が不足していると考えられます。
各大学でも、経営人材マッチング等の施策を講じていますが、私たち支援事業者は、スタートアップエコシステムの一員として、大学発ベンチャーへの経営人材支援を、これまで以上に力を入れていくときかもしれません。大学関係者、自治体関係者、同業他社の方とも是々非々で力を合わせ、大学発ベンチャーの後押しができるよう、知恵を絞りたいと思います。

参考:
令和5年度 ⼤学発ベンチャーの実態等に関する調査 調査結果概要
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa5_vc_cyousakekka_houkokusyo_r.pdf

大学発ベンチャーデータベース(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/univ-startupsdb.html

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