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起業の潮流
公開日:2024.08.13
まず、国内の開業率・廃業率の状況を見てみましょう。開廃業率は景気の影響を強く受けており、バブル景気のピークと言われる1988年度から低下傾向になった後、2000年代を通じて緩やかな上昇傾向で推移してきました。2020年に一時的に上昇しましたが、2021年度以降は定低下傾向。足下では3.9%となっています。2020年は日本経済全体が新型コロナウイルスの影響を強く受けましたが、その中でのオンラインビジネスやEコマースの起業が増えたのではないかと言われています。
実際に、起業者数の推移を見ると、2012 年に約514 万人いた起業者は、2022年には約466 万人となっており、減少傾向で推移しています。
ただし、男女別に起業者数の推移を見ると、男性の起業者数は2012年から2022年にかけて約60万人減少している一方で、女性の起業者数は約12万人増加していることが分かります。女性経営者の比率も伸びており、東京商工リサーチによると、2023年の国内企業の女性社長比率は61万2,224人であり、全社長数の14.96%を占めています。調査開始の2010年(21万2,153人)から見ると、13年間で約3倍(188.5%増)に増えています。産業別で女性社長が最も多いのは「サービス業(飲食業、美容業)」です。女性が活躍しやすく、小資本でも起業が可能な業種で女性社長が多いことがわかります。女性起業家が増えてきた理由として、民間企業や自治体が提供する起業支援プログラムが充実してきたこと、リモートワークやフリーランスの増加により多様な働き方が浸透してきたことも挙げられるでしょう。
次に、29歳以下の起業者数の推移を見ると、29歳以下の起業者数数は2022年時点では11.3万人であり、2012年時点の7.6 万人と比較すると1.5倍近くに伸び、創業に挑戦する若年層が増えてきている様子がうかがえます。その理由として、インターネットやスマートフォンの普及によりビジネスの立ち上げや運営が容易になったこと、安定した大企業での長期就労に対する価値観が変わり、自己実現や柔軟な働き方を重視する若者が増えたことが挙げられるでしょう。また、日本政策金融公庫の調査によると、社会の課題解決にビジネスの手法を用いて取り組むソーシャルビジネスへの関心も若年層を中心に高まっています。
開業費用の平均値及び中央値の推移を見ると、2023年度で開業費用の平均値は1,027万円、中央値は550 万円であり、特に中央値は、2013年度以降で最も低い水準となっています。開業費用の少額化の要因は複数ありますが、インターネットの普及により低コストで開始できるビジネスが増えたこと、クラウドサービスの普及によりITインフラを気軽に活用できるようになったこと、シェアリングエコノミーの普及によりオフィス等の家賃や設備費用を抑えられるようになったこと、資金調達手段が多様化しクラウドファンディングなども一般化したことが挙げられます。
開業費用の少額化が進んでおり、創業にチャレンジしやすい環境となっていると考えられ、若年層など今後創業に挑戦する人が増えていくことが期待されます。
開業企業と存続企業の労働生産性を見ると、開業企業は存続企業と比較して、労働生産性が高い傾向にあることが分かります。中小企業白書に理由は明記されていませんが、新しく開業した企業の方が新しいITツール等を取り入れやすい傾向にあること、コンパクトな体制で最大限の効果を出せるよう努力する傾向にあることも理由と言えるかもしれません。新たに開業企業が参入することにより、国内企業の労働生産性を押し上げることも期待できます。
小規模事業者の地域の社会課題解決に向けた取組に対する関心度を見ると、2021年から2023年にかけて、地域の社会課題解決に向けた取組に対して「非常に関心がある」、「関心がある」と回答した割合が増加しています。小規模事業者においても、地域の社会課題解決に向けた関心度が高まっている様子が分かります。
また、設立5年以内のベンチャー企業における起業の動機を見ると、起業の動機として「社会的な課題を解決したい、社会の役に立ちたい」と回答した割合が7割を超えて最も高いことが分かります。その理由として、ソーシャルビジネスの優れたロールモデルが国内でも誕生していることや、社会をより良くすることを「かっこいい」と感じる若い世代の価値観の変化が挙げられます。
社会課題を解決することを動機とした起業が増えているという文脈で、中小企業白書でも紹介されていたキーワードを2点挙げておきます。創業者との話の中でも今後出てきそうですね。
インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動のことです。従来、投資は「リスク」と「リターン」という2つの軸により価値判断が下されてきましたが、これに「インパクト」という第3の軸を取り入れた投資のことを言います。世界及び日本のインパクト投資残高を見ると、世界と日本のいずれもインパクト投資が増加しており、社会課題解決に対する意識・関心が高まっていることが分かります。
「ゼブラ企業」とは、2017年にアメリカで提唱された概念です。時価総額を重視するユニコーン企業と対比させ、社会課題解決と経済成長の両立を目指す企業を、白黒模様、群れで行動するゼブラ(シマウマ)に例えて命名され、近年、日本でも注目を集めています。中小企業庁では、地域の社会課題解決の担い手となるゼブラ企業を「ローカル・ゼブラ企業」と位置づけ、その創出や育成に向けた「地域課題解決事業推進に向けた基本指針」を2024年3月に取りまとめました。この中では、ローカル・ゼブラ企業が取り組む地域課題解決事業の重要性と、地域の関係者との協業を実現し、必要な資金や人材を確保する際のポイントや、社会的インパクトの可視化の重要性について述べています。
以上のことをまとめると、下記の3点に集約できるかと思います。
1.全起業家数は減っているが、女性や若年層の起業家は増えている
2.開業費用の少額化が進み、起業のハードルが下がっている
3.社会課題解決を動機とした起業が増えており注目されている
みなさんの起業支援の中での実感と合っていたでしょうか?
とにかく膨大でとっつきにくいイメージのある「中小企業白書」ですが、支援のヒントがたくさん見つかると思いますので、ご支援に関係あるページのみでもチェックしておくと良いですね。