起業支援ラボ

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職業としての起業支援家

【起業をめぐる哲学】人生にも通じる、起業相談でよく聞かれる4つのこと

「起業相談ではどんな相談が多く、支援側は実際どう答えているのか?」 よく聞かれる質問だが、その性質上つまびらかにされていない。 ツクリエでは、年間約5000件の起業相談に対応している。相談内容は起業フェーズにより多岐にわたり、起業前であれば初期か直前か、起業後なら直後か何年か経過後かでだいぶ変わってくる。 起業支援会社を起業し、今も現場で年間100件程の起業相談に応じるツクリエ代表・鈴木英樹が、中でもよく聞かれる「起業相談」4つを紹介しながら、起業の本質を考えてみる。

鈴木 英樹

株式会社ツクリエ 代表取締役

商社、コンサル会社を経て、2002年大阪市の起業支援施設に勤務、以後インキュベーション業務に係る。
2006年テクノロジーシードインキュベーション(株)(TSI)入社、2009年TSI取締役、 2015年(株)ツクリエ設立、代表取締役就任(現任)。
ファンド運営、投資育成、起業施設運営を多数手がけるとともに、自らもベンチャー立ち上げと経営を複数経験。

やるかやらぬか 成功の方程式はない

起業前相談 あるある①
相談者:「自分は起業に向いているのでしょうか?」
私:  「向いているか向いていないかなんてない。やるかやらないかだけです」

「企業家(起業家)精神とは、独特の特性をもつ何かである。気質とは関係ない。実際のところ、私はいろいろな気質の人たちが、企業家的な挑戦を成功させるのを見てきた。」
「意思決定を行なえさえすれば、学ぶことによって、企業家として行動できるようになる。企業家精神とは、気質ではなく行動である。」
(ピーター・ドラッカー)

起業という未体験の、視界ゼロの世界に飛び込むとき、やはりお手本や正解が欲しくなるだろう。しかし、資質があるかどうかを考える暇があったら、行動したらいい。行動すれば、具体的な結果が得られる。
私の感覚では、同じビジネスアイデアを思いつく人が100人いたら、本当にやる人はそのうち10人。さらに問題が起きても歯を食いしばってやり遂げるのは1人。
起業で成功するかどうかは、この差でしかないと思っている。
これに似た質問で、「こうしたら成功する、という方程式みたいなものはありますか?」もよく聞かれる。しかし、そんなものはない。

不安と向き合い行動する

起業前相談 あるある②
相談者:「食べていけるかどうか不安です」
私:  「みんな不安です。私だって未だ不安です。不安と付き合うしかない」

不安は行動の原動力。不安だから資金繰りを確認し、不安だから練習や準備をする。
今は上場手前まで成長したある会社の経営者が起業して間もない頃、「資金繰りが心配で寝られない」とつぶやいていたのを思い出す。彼は不安を吐露しながらも、資金計画をしっかり立てていた。私から見ると完璧なほどに。
それでも彼は不安なのだ。不安だから資金計画をしっかりつくる。
不安とつき合うコツは、彼のように不安の存在を具体的に認識し、行動することだ。
一番厄介なのは、漠然とした不安を抱えたまま何もしないこと。不安という、自分が勝手につくった見えない壁を前に呆然と立ちすくんでいる。よく見てください。見えない壁なんて、そんなもの最初からありません。
事実かどうかは定かではないが、昔ある雑誌で読んだとても好きなエピソードがある。「Rolling Stonesのミックジャガーはステージに上がる前、ベテランになった今でも緊張で震えている」。

誰の何を幸せにしたいか一緒に考える

起業後相談 あるある③
相談者:「とりあえず起業しましたが、うまくいきません」
私:  「よし、どうやったらうまくいくか。一緒に考えましょう」

起業後は質問がより具体的かつ深刻になる。日々具体的な問題が波のように押し寄せる。起業家はひとりで悩むことが多いため、客観的な意見、他の事例、ユニークな洞察を欲しがっている
こういう場合、答えは相談者自身がすでに持っていることが多い。従って一緒に考える行為、つまり「壁打ち」により相手の中の気づきを促進するようにしている。
仮説はだいたい外れる。しかし、これはチャンスの始まりでもある。技術・プロダクトにほれ込むより、課題・顧客にほれ込むのがコツだ。ピボットを繰り返せば必ず課題解決にたどり着く。技術は手段。顧客価値の達成手段であり、課題の解決手段である。
もうひとつ、この質問の背景として、起業が目的化している人もいる。起業は手段だ。起業して何がやりたいのか、誰を幸せにしたいのかが不明確なまま起業するとこういう状態になりやすい。そんな人には「なぜ起業したのか」「何をしたいのか」というテーマを一緒に掘り下げていくことにしている。かくいう私も、最初の起業はわずか3か月で失敗した。原因は起業が目的化していたからである。

事例を参考に対策を考え整理する

起業後相談 あるある④
相談者:「起業仲間(または社員)ともめています。どうしましょう?」
私:  「同じ悩みを持つ人は多い。ある人はこうやって解決しました」

複数人で起業すると、ほとんどがいずれ別れる。うまくいくほうが稀だ。共同創業を結婚だとすると分裂は離婚。円満離婚もあるが、泥沼もある。真剣に仕事をすれば、だいたい喧嘩になる。それを乗り越えて本音のつきあいができるかどうかが、チームビルディングの勝負所だ。結果、別れる選択になっても仕方のないこと。あとは綺麗に別れたらいい。そのための手続きなどを、事例を交えながら説明している。
また労務トラブルも多い。ほとんどが就業規則をつくらずに起業する。私もそうだった。でも就業規則はしっかりつくるべきだし、雇用者としてコンプライアンスは遵守すべき。こういう相談には、他の人の事例を話しながら具体的な対策(To do)を一緒に考えて整理している。

賢く失敗すべし

最近、女性の起業相談と、VCからの資金調達に関する相談が増えたと感じる。いずれも日本の起業環境が前に進んでいる証拠ではないかと思う。起業の担い手が多様化しているし、資金調達はデット中心から少しずつエクイティも浸透してきた。相談者のビジネススキルや知識も総じて上がっている印象だ。一方で、ハードルが下がり多様な選択肢を前に、行動できず頭でっかちになりすぎている人もたまに見受けられる。石橋を叩いて壊してしまうタイプ。

起業は、失敗や不安とうまく付き合わないといけない。失敗を恐れてはいけない。むしろ賢く失敗すべきである。リスクをコントロールし、失敗できる環境をつくる。環境とは時間とお金のこと。私も常に最悪の状態と最高の状態の二つをイメージして行動するようにしている。物事は最高と最悪の中でしか着地しない。そのレンジを少しずつ上げていけば、成長する

できるかどうか?―やってみたらわかる。
つくれるかどうか?―つくってみたらわかる。
売れるかどうか?―売ってみたらわかる。

漠然と考えても、漠然とした答えしか出ない。具体的に考えれば、具体的な答えが出る。行動すれば、最も明確な答え=結果が出る。石橋が壊れるかどうかは、渡ってみればわかるのだ。ただし、救命胴衣は着けましょう。

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