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起業の潮流
公開日:2025.07.03
日本で起業したいと願う有望な外国人起業家が、スムーズに起業・経営できるようにする制度の「スタートアップビザ」。
日本の国際競争力の強化をはじめ、グローバルな経済活動の拠点になることを目的としています。国が掲げる「スタートアップ育成5か年計画」にある、ユニコーン企業100社創出に向けた施策の一つでもあります。
現在、スタートアップビザの「外国人起業促進実施団体」として経済産業省より認定を受ける民間唯一のツクリエ社は、どのような思いで外国人起業家を支援するのかー。代表の鈴木が紹介します。
日本で外国人が起業・経営するには、「経営・管理」のビザ(在留資格「経営・管理」)が必要だ。経営・管理ビザを取得する外国人は、年々増えている。
出入国在留管理庁のデータによれば、令和6年6月末時点で、対前年比10.9%の増減率である。
(出入国在留管理庁発表データより)
しかし、同ビザ取得のためには、事務所確保のほか、2人以上の常勤職員または500万円以上の出資金が必要であり、これが外国人起業家のハードルになっていた。
そこで、スタートアップビザである。
外国人起業活動促進事業(いわゆる「スタートアップビザ」)は、外国人起業家が日本での起業準備活動を行う際、在留資格「特定活動」が付与され、最長2年間、起業準備活動を行うことができる制度。
同制度では、認定された団体が、外国人起業家から起業準備活動計画に関する相談を受け、その内容を確認し、適切な場合は在留資格「特定活動」の申請に必要な確認証明書を交付し、その後の起業準備活動の支援・管理を行う。弊社は、2025年3月に民間事業者として初めて、経済産業省より「外国人起業促進実施団体」として認定された。
スタートアップビザに関する取組は、これまで内閣府と経済産業省で実施されてきたが、2025年1月に経済産業省の「外国人起業活動促進事業」に一本化された。本日(2025/7/2)時点では、20の外国人起業促進実施団体が経産省HPで紹介されており、うち19が自治体、1が民間事業者(弊社)である。
JETROのレポートによると、2024年5月末時点で、「スタートアップビザ」制度を通じて716人以上の方に在留資格が付与され、うち少なくとも359人が「経営・管理」資格への移行または更新に成功しているという。
米国政策財団(NFAP)によると、米国ユニコーン企業のうち移民が創業した企業は54.8%を占める。移民創業者の出身国トップはインド。創業者や重要なリーダー職で移民が1人以上いる企業は約8割に上るという。有名どころでは、Google共同創業者のセルゲイ・ブリン氏は旧ソ連、イーロン・マスク氏は南アフリカ出身である。ユニコーンに限らず起業家に占める移民の割合はデータが見当たらなかったが、全人口における移民の割合が14%程度であることから推察すると、およそ20-30%ではないか。
一方、日本で起業する外国人の割合はどうか。こちらもデータが見当たらなかったが、経営・管理ビザの保有者が4万人強であることから、2-3%程度ではないかと思われる。
経営・管理ビザの取得者数の伸びを考えると、その割合は増加傾向と推察。弊社運営のインキュベーション施設でも外国人起業家が確実に増えており、約10%が外国人ではないか。しかもその国がバラエティに富んでいる。キルギス、サウジアラビア、インド、タイ、韓国、中国など。私は、異国の地で頑張る外国人起業家が大好きである。
日本人であろうと外国人であろうと、起業家を支援する。弊社が外国人起業促進実施団体として認定を受けようとした動機はシンプルだ。大学における起業支援の現場でその必要性を強く感じていた。起業を考える外国人留学生が、経営管理ビザの要件である資本金500万円を用意するのは、あまりにハードルが高い。
しかし、外国人による日本での起業の課題は、ビザだけではない。むしろ、ビザよりも「住居」と「銀行口座」のハードルが高い。
シェアオフィスが増えてきた今、ワークスペースの確保は比較的容易であるものの、住むところは不動産オーナーから拒否されたり、日本人の連帯保証人を要求されたりと、まだまだ確保は困難だ。銀行口座については、もっと困難である。日本人の起業の口座開設も審査が厳しくなっている昨今、外国人起業家となるとさらに厳しい。弊社の支援事例でもネット銀行の口座しかつくれていないケースがある。
ビザ、住宅、銀行口座、言語と、外国人にとって日本での起業のハードルは高い。
それでもなぜ、外国人は日本で起業するのか?
弊社が支援する外国人起業家に聞いてみた。インド出身のエンジニア起業家は、「マンガやアニメなど日本の文化が好き。アメリカは高い報酬はもらえるが、分業が進んでいて仕事が面白くない」と語り、キルギス出身の女性起業家も「日本の芸術や文化が好き」という。やはり日本の強みはクリエイティブなんだと思う。
人口減少に直面する地方こそ、外国人起業家誘致が必要ではないか。日本人の起業家誘致もいいが、日本全体でみればゼロサム競争である。特に地方大学の留学生がその地域に残って起業することを支援すべきだ。そして、その支援はビジネスの支援だけではない。住居、医療、教育、食など生活の支援もセットで必要である。地方に住み、地方から世界を相手にビジネスをする、グローバルに考える。
人口5000人ほどの自治体職員の言葉を思い起こす。「外国人アーティストがうろうろしている田舎って素敵じゃないですか」。外国人起業家がうろうろする地方は素敵だ。