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エコノミックガーデニングを起点とした自治体の創業支援【イベントレポート】

自治体の創業支援担当職員や創業支援者向けたイベント「自治体における創業支援と地方創生を考える」がTokyo Innovation Base(TIB)で2025年2月に開催されました(主催=中小機構)。
地方創生2.0が動き出し、地域における創業支援は重要施策に位置づけられている中、本イベントでは支援者が創業支援のヒントを得ることを目的に、各省庁・機関から施策の動向説明や、民間による創業支援事業の紹介、全国8自治体による事例が共有されました。
本イベントで株式会社ツクリエ小泉祐司がモデレーターを務めた、静岡県藤枝市、愛媛県東温市、東京都による「自治体の創業支援事例の紹介~地域の関係プレーヤーを巻き込んだ創業支援の枠組み作り~」から一部抜粋してお届けします。

起業支援ラボ編集部

「起業支援とは何か?」をデータやファクト、哲学から考察し、提言するWebメディアの編集部。起業支援業界内外のさまざまな人たちと、さまざまな角度から問いを投げかけ、起業支援というブラックボックスを明らかにしてゆく。起業の開業率・存続率・成長率を上げ、社会の新陳代謝を促す起業の支援を考える。

本パートでは、「エコノミックガーデニング」をキーワードに起業支援を進めてきた静岡県藤枝市、愛媛県東温市の2自治体と、本イベント会場であるTIBの事業主体である東京都によるスタートアップ支援の取り組みが紹介されました。

モデレーターを務めた株式会社ツクリエ小泉がエコノミックガーデニングを説明

藤枝市の取り組み 〜創業起業から成熟期まで切れ目のない支援〜

「エコノミックガーデニング」とは、米国で生まれた地域経済開発手法。このエコノミックガーデニングを、拓殖大学の山本尚史教授による指導のもと全国自治体に先駆けて取り入れたのが静岡県藤枝市で、現在も同手法に基づき創業支援、中小企業支援を行っています。

静岡県藤枝市産業振興部創業支援室創業支援係係長の西野寛子氏からは、「エコノミックガーデニングは企業誘致に頼らず、地域という‘土壌’を生かして地元の中小企業を‘植物’のように大切に育て、地域経済の活性化を目指すという考え方。長期的な視野で雇用や税収の増大を図っています」と説明が。


藤枝市では、起業や経営課題などを無料で相談できる窓口として、エコノミックガーデニング支援センター「エフドア」を2014年に開設。起業・創業の相談から経営改善、マッチング、販売促進等、ビジネスのことを相談できる場所として地域に定着しています。
中でも創業支援に力を入れ、特に女性起業家育成プログラムが充実。子育てや介護等、女性のライフプランに合わせた起業スタイルを提案する「女性のための小さな起業講座」と、より専門的なノウハウを学ぶ「ふじえだ女性ビジネスアカデミー」など、段階に合わせた網羅的な支援を提供。また隣接都市で結成した「志太起業ネットワーク推進協議会」では、高校生向けビジネススクールやビジネスコンテストなどのプログラムを実施。支援を活用して創業した方へのインタビューをまとめた冊子を毎年発行し、創業希望者潜在層の掘り起こしもしています。支援対象者数、起業件数ともに年々増加しており、令和5年度は400名、起業件数は100名を超えました。

サービス提供にあたっては、金融機関や商工会議所・商工会、大学や図書館等と連携し協議会形式で定期的な情報交換を実施。起業件数を伸ばすだけでなく、起業後のフォローアップを充実させ、産学官金が一体となって起業家を地域に根付かせる取り組みを実施していることが伺えました。

東温市の取り組み 〜中小零細支援を条例に〜

もう一つの「エコノミックガーデニング」実践都市が、愛媛県東温市。従来の企業誘致ではなく、市内の中小零細企業を育成する方針のもと、中小零細企業を市民生活の向上や市の発展に大きく貢献する存在と認識。同市は事業者の約8割が零細企業であり「中小零細企業の発展と市の発展がイコール」という考えを総合計画に反映しています。「中小零細企業振興基本条例」を策定し、条例で中小零細企業の支援をしている点もユニークです。

エコノミックガーデニングを重視し、長年地元の中小企業支援を行ってきた愛媛県東温市産業建設部部長の山本一英氏から、具体的な取り組みが説明されました。
エコノミックガーデニング研究の第一人者である拓殖大学・山本尚史教授ほかをスーパーバイザーに招聘し施策検討や審査を行う円卓会議や、市内の全ての中小零細企業を対象に訪問・聴き取りを行う現状把握調査、事業所訪問を中心としながら市内産品のブランド化や販促支援などを実施しています。

概ね5年ごとに全事業者に実施する現状把握調査では、コロナ後の調査で物価高騰やコロナ禍による打撃、人員不足による経営硬直など、特に2人以下の事業所の孤立感が明らかになりました。それを受け、創業起業・商品開発・人材育成・デジタル化・広告・PRなどの経費に対する「中小零細企業丸ごと応援補助金」を導入。また、地域ブランドの強化や販路拡大、マッチング支援、低利での資金融資や利子補給などの施策も打ちました。

企業からいつでも頼りにしてもらえる行政を目指し、窓口に来ていただいた際には同じクオリティで補助金の説明ができるように指導するなど、顔の見える支援を徹底している様子が伺えました。

東京都の取り組み 〜グローバル×裾野拡大×官民協働5年で10倍に〜

今回のイベント会場となったTIB(Tokyo Innovation Base)の事業主体である東京都がTIBで行われていることや構想について、東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室イノベーション推進部/スタートアップ戦略推進担当課長の直井亮介氏より共有されました。

東京都は世界にイノベーションを起こす挑戦者としてスタートアップ企業に注目し、「グローバル(ユニコーン数)」「裾野拡大(起業数)」「官民協働(協働実践数)」の3軸を掲げ、各々の指標について5年で10倍にする目標を掲げて支援策を実施しています。

その一環として東京駅に程近い有楽町にTIBを2024年5月に正式オープン。TIBは、都内、全国各地、世界の多様なプレイヤーをつなぎ、スタートアップ支援の一大プラットフォームの構築を目指しています。
40者超のアクセラレーター、大学、大手ディベロッパー等、TIBの企画運営に参画し様々なプレイヤーを結び付けるスターティングメンバー(通称スタメン)と、都と協働してスタートアップ支援やイノベーション創出に向けたイベント・ブログラムを実施するTIBパートナーが協働で支援。
ハードウェアスタートアップを主な対象とした設備提供やアドバイザー支援、B to Cビジネスを対象とした試験販売やマッチング支援、公式ピッチイベントを毎月実施するなどしています。

令和6年度は、スタートアップ企業を「キングサーモン」になぞらえ、実証プロジェクト×海外展開支援でグローバルスタートアップを輩出する「キングサーモンプロジェクト」や、都政課題の解決を目指すピッチイベント「UPGRADE with Tokyo」など、さまざまな取り組みが並走。「行政がスタートアップのファーストカスタマーになる」を掲げ、積極的に官民協働を推進。
さらに、全国の自治体が政策目的随意契約に係る認定情報を相互に活用できる仕組みを構築することで、スタートアップの公共調達への参入を促進し、自治体との協働を拡大する「ファーストカスタマー・アライアンス(公共調達参入促進・自治体連携事業)」の導入を進めています。

今回、いずれの自治体も軸を明確に打ち立て、それに沿った施策を実行する様子が印象的でした。創業支援はとかく属人的になりやすく、創業前後のみにフォーカスがあたり、その後のフォローや定着が困難になるなどの課題がありますが、行政が主体となって官民一体の組織的な支援体制をつくることで、継続性や定着率が格段に上がることが伺えました。

〈モデレーター プロフィール〉
小泉 祐司(株式会社ツクリエ シニアマネージャー/「StartupSide Tokyo」責任者)
新卒で水戸市役所に約4年間勤務し、コワーキングスペースの運営や商店街振興等のまちづくりに携わる。 2019年7月より行政コンサルタントとして自治体の行政計画策定に携わるとともに、中小企業の新規事業開発のプログラムを企画運営。2021年4月からはつくば市のインキュベーション施設でコミュニティマネージャーとして125本以上のスタートアップイベントを企画し延べ8,000人を集客。 2023年10月より株式会社ツクリエにジョインし、インキュベーション施設「StartupSide Tokyo」の責任者を務めながら全国の自治体のスタートアップ支援、起業支援に携わる。

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