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起業家、起業支援を語る

【インタビュー】「女性起業家支援」に今必要なこと~経産省女性起業家海外派遣プログラム参加の視点から~

起業界隈でもジェンダーギャップは課題であり、起業家、投資家、支援者問わず男性が多数を占める中、行政をはじめ、女性起業家を増やす施策が講じられています。株式会社ファーストブランド 代表取締役の河本扶美子さんは、女性起業家という言葉もあまりなかった2002年に起業。現在会社を経営しながら、起業家の支援も行っています。また、2024年は女性起業家として経済産業省の起業家育成・海外派遣プログラムに参加するなどし、自身の起業家としてのアティテュードをアップデートし続けています。
女性起業家・経営者・起業支援家の視点を持つ河本さんに、日本の女性起業家支援の課題と解決策の視点をうかがいました。

河本 扶美子

株式会社ファーストブランド 代表取締役社長

英国留学後、都市銀行を経て外資系航空会社に勤務。2002年「日本の400万ある個人事業主を含めた事業主・事業社に対し一番のブランドを創るサポートをすることで地域の活性化そして日本の活性化の一端を担う」企業を目指し、有限会社ファーストブランド工房(現株式会社ファーストブランド)を設立、代表取締役に就任。デジタルマーケティングを主軸としたインテグレーション事業、個人事業主のブランディングをデジタルで行いながら、全国の事業主と生活者を繋ぐことが出来るプラットフォームのマイベストプロ事業、企業ブランディングにこだわることで採用を実現するだけでなく、求職者はお祝い金がもらえるサービスを搭載した採用課金型の求人ポータルサイトのマイベストジョブ事業の3事業を行っている。また、2018年から50代以上の独立を支援する「プロ50プラス」プロジェクトをスタートし東京都や新聞社と「シニア創業」のイベントを定期的に開催。東京都中小企業振興公社「Startup Hub Tokyo丸の内」起業コンシェルジュ(相談員)。

女性起業家は増えているが…

起業支援ラボ編集部(以下、編) 河本さんは20年以上女性起業家・経営者として第一線を走り続け、起業支援者としても起業家の相談対応を行っていらっしゃいます。また、起業家として今年経産省の女性起業家海外派遣プログラムJ-StarXに参加された視点、起業家と起業支援者双方の視点から、女性起業家支援の課題をお聞かせください。
前提としては、女性起業家自体は増加傾向ですよね。
河本扶美子さん(以下、河本) 日本の女性起業家の数自体は年々増えていますが、経営者という枠組みでいうと、女性は半数以上が事業承継により経営者となっており(帝国データバンク 全国「女性社長」分析調査2023年)創業者の割合は男性より低い状態です。

また、妊娠・出産や子育て、介護等で再就職ができずに起業した、いわゆる生計確立型起業家の女性が多いです。

引用:「GEMでは事業機会を追求するために起業するタイプ(事業機会型起業家)と起業以外に選択肢がなく、必要に迫られて起業するタイプ(生計確立型起業家)に区分している」

経済産業省委託調査 「起業家精神に関する調査報告書」令和5年6月

編)必ずしもポジティブではない選択肢としての起業ですか?
河本)そうですね。自分で起業してみよう!というような、いわゆる事業機会型起業家が圧倒的に少ないのが、日本の女性起業家の特徴の一つです。その観点から言うと、女性の課題と男性の課題が違うので、支援の仕方も変わってきます。女性と男性で支援方法を分けるのは必要ですね。
編)スタートアップ界隈では、女性起業家のジェンダーギャップがさけばれています。調査では、女性のアクセラレーション(事業成長の加速を目指す)プログラムの参加者が圧倒的に少ない点、女性メンターや審査員が少ない指摘もあります。女性CEOのスタートアップの半数はIPOの予定がない(男性CEOのスタートアップは33%)、資金調達等で評価を受ける場面で結婚や子供の有無等の個人的な質問をされる女性は男性の5倍以上という数字も。一方でそうした現状に「女性は優遇されている」と感じる男性が多数いることもあり、女性起業家を取り巻く環境の改革から支援が必要なようです。

 

引用:金融庁「スタートアップ界隈におけるジェンダーの多様性」に関するアンケート 2023年

 

個人事業主の支援を軽視しない

編)河本さんが感じている、女性起業家の課題は何でしょうか?
河本)主に3つあります。

1)ロールモデルがいない。個人事業主の事例が圧倒的に少ない
2)事業機会認識指数が低い
3)これまでの経験・能力を起業に活かす力が足りない

1つ目が、ロールモデル不足です。「過去2年以内に新たにビジネスを始めた人を個人的に知っているか」という質問に「はい」と回答した人数を成人人口100人当たりの人数で示す「起業活動浸透(ロールモデル)指数」では、日本の女性起業家は先進国と比べ起業活動浸透指数が低いことがわかっています。
2つ目が、事業機会認識指数の低さです。「起業に有利なチャンスが訪れると思うか」という質問に「はい」と回答する成人人口の割合=事業機会認識指数が低いこと。
3つ目が、起業時の事業機会を実現するための「知識・能力・経験指数」が低い点です。

ロールモデルに関しては、「個人事業主の女性起業家」の成功事例が披露される場を増やすことが最優先と思っています。スタートアップ企業や中小企業の女性起業家のロールモデルのエピソードはメディア受けしますが、実際圧倒的に多いのは個人事業主の女性起業家です。一見地味ですし珍しくもないので見過ごされがちですが、彼女たちの成功事例こそ、今後女性起業家を増やしていく手法の近道と考えています。

億規模の資金調達に成功した方、海外でめざましく活躍した方、IPOした方など、言うまでもなくそういった女性起業家は素晴らしいのですが、少しまぶし過ぎる点も。これから日本が女性起業家を増やしていこうとするならば、「自分も起業できそう」と思える人を増やすことが大事です。パワフルな成功事例のお話は、自分にはやっぱり無理と、起業の後押しどころか、逆に「起業しない決意」を固めさせてしまう可能性があります。こういう人でないと起業はできない、才能がないと起業は無理なんだと思わせてしまうのは、もったいない。
自分と同じ目線の、例えば主婦から個人事業主で開業し何かの講師をやっていますというような個人事業主で成功した女性起業家の話を聞く場を多くつくるべきと思っています。

起業活動浸透(ロールモデル)指数の低さに関しては、起業自体に魅力を感じていないというより、ロールモデルを知る機会が少ないことに起因しています。
また、忘れがちなのが起業のアフターケアです。起業後に習得が必須となる営業、資金繰り、マーケティング、ブランディング等の知識を学び能力を身につける機会が少ないんですね。起業後を見据えた学ぶ場を、例えば自治体が率先してつくり始めると、起業しようと思う人がより増えると思います。
潜在的に起業に興味がある人、起業に向けて走り始めたけれどハードルの高さで立ち止まっている人たちを取りこぼさないこと。個人事業主から法人化しその先にIPOするというような、段階的な歩みをつくる。いきなりIPOするような起業を目指す女性の数は圧倒的に少ないので、そういった意味でも個人事業主を増やす必要性を感じています。
編)機運醸成と底上げですね。いきなりスタートアップやIPOを目指す女性起業家は少ないと。
河本)もちろんスタートアップ育成支援は継続しつつ、とはいえ個人事業主の起業支援が今は圧倒的に少ないので、双方の支援を視野に入れた両軸の施策の実施が重要です。個人事業主規模の女性起業家を増やしていかないと、結果的には女性のスタートアップの輩出は狙いにくいと感じます。
編)個人事業主の起業で成功とは、具体的にはどれくらいの数字のイメージですか?
河本)まずは年商500万円から1000万円ぐらいでやっている方のお話を聞く機会が、女性起業家を増やす解決策の一つですね。
事業機会認識指数が低いという点では、ビジネスモデルのつくり方が全然わからないという相談が多いです。キャリアの棚卸しをし、これなら自分が勝てると思えるビジネスモデルをつくる機会も増やしたい。自分の強みとやりたいこと、社会に求められていることを掛け合わせ、ゴールまでを描けるワークショップの機会があるといいですね。とはいえ、1回ワークショップをしてもたどり着かないので、5~6回に分けて、自分のビジネスモデルをつくる機会があるとベターです。先輩女性起業家のロールモデルとビジネスモデルを知って学ぶ場を提供し、これまでの自分の経験・能力を起業に活かす力を育んで支援する3段階ですね。
日本の事業主数は360万ほど、そのうち99%が個人事業主と小規模企業と中小企業です。個人事業主はその中で半数以上を占めています。個人事業主向けの支援が全くないとは言わないのですが、ここを増やさないと底上げにはならない。
編)個人事業主の起業支援が軽視されている傾向を何とかできればということですね。
河本)今は副業も認められ、起業したい方には環境が整ったいい傾向にありますが、誰もがアクセラレーションプログラムを受けるわけでもなく、誰もがピッチをするわけではない。女性起業家を増やすには、ロールモデルと事業機会の創出が必要で、起業後ビジネスを成長させるための学ぶ機会をつくる。女性起業家を生む土壌づくりと、起業後に成長・継続できるよう、いわば花を咲かせるまでの肥料を与えるような2段階の起業支援が必要だと思います。

女性起業家育成特化プログラムに参加したかった理由

編)河本さんが2024年に起業家として参加されていた、経済産業省の起業家育成・海外派遣プログラム「J-StarX Women’s Startup Lab 女性起業家コース」についても教えてください。

河本)女性起業家支援で著名な堀江愛利(ほりえあり)さんが運営する「Women’s Startup Lab」という、シリコンバレーで実施されている女性起業家育成に特化プログラムがあるのですが、それが経産省のJ-StarXに組み込まれることを知り、Women’s Startup Labのプログラムが受けたくて応募しました。
編)堀江さんをベンチマークされていたのですね。
河本)堀江さんは、アメリカで女性起業家を目指す方の中では非常に有名な方です。彼女が掲げているのは、「日本の起業家を増やしていくには、個人事業主でも世界を見据えたマインドセットが大事」というポリシー。私自身その点を強化したかったのと、私が今回採択されたような政府の海外派遣プログラムには、IPOを視野に入れた女性起業家もいれば、個人事業主の方も多く参加していました。600人程の応募者から、3ヶ月の国内プログラムを経て24人に絞られ、シリコンバレー、ボストン、ワシントンDCに各々8人ずつに分かれ2週間の研修を受講。私はボストンのプログラムに参加しましたが、参加の8人中、私のような20年超事業をやっているメンバーもいれば、これからビジネスを立上げる学生、立上げ後3~4年の起業家等フェーズはさまざまでした。
目的は、海外でのネットワークをつくり、海外でビジネス展開をしていくための機会とノウハウを得ること。2週間かけてノウハウとマインドセットを徹底的にインプットします。アドバイザーから指南を受けたり、レクチャーやピッチがあったり、堀江さんとのマインドセットの面談等がびっちりと組まれていました。
編)会社経営を20年超ほどされ、なおも海外で厳しいプログラムに参加する向学心はどこから湧いてくるのでしょう。
河本)どのステージにいてもまだ成功しているわけではないですし、経験はありますが、時代ごとに事業の在り方は変わっていくので、勉強していかないといけない。向学心がなくなった時点で成長できないんです。
今回のプログラムで重視された女性起業家のマインドセットでは、自分と違うステージにいるメンバーと一緒に学び、ディスカッションを重ねることで彼女たちからの学びがすごくありました。違うフェーズのメンバーと同じ立場で実践することを経験したかったのも参加理由の一つです。
編)起業支援プログラムは、通常、起業潜在層、シード、アーリー、レイター等、起業家のフェーズごとに細分化されていることが多いですが、潜在層から起業後20年の方が同じ命題に取り組む中での気づきはすごくありそうですね。
河本)多かったです。今回面白かったのは、どのステージにいても、たとえ事業を立上げ前でも、海外で活躍したいという野望のある人に対してはチャンスを提供するプログラムになっていた点でした。

「J-StarX Women’s Startup Lab 女性起業家コース」HPより

編)参加の応募資格が「101歳まで」なんですよね。
河本)そうなんです。私が参加したボストンのメンバーは、私が最年長で一番下は20歳でした。年齢・世代差はありながらも、学んでいる時は互いに教えあうギブアンドテイクがあります。起業を目指すメンバーなので、垣根を超える柔軟性がなくなってしまうと、事業も自分も成長ができないです。そういう意味では、2週間みんなで朝から晩まで過ごし、私は起業の失敗や成功事例を伝え自身の経験からアドバイスをしたり、彼女たちからは自分にないアイデアをもらいました。

事業規模に関わらず初めに海外を見据える

河本)参加して得られたもう一つは、 海外展開は、とてつもなくハードルが高そうという先入観がありましたが、人脈やネットワークがさえあれば、実はハードルは高くないとわかりました。
加えて、英語ができる・できないは、さほど関係ないこと。英語が話せるに越したことはないですが、あくまでビジネスが主役、英語は手段なので、海外で通用するようなビジネスモデルにブラッシュアップしていけば、英語力は二の次でもいい。大事なのは、思い切って行動するマインド。マインドセットをここまで徹底的に叩き込まれた機会は、これまでの起業後の経営を振り返ってもなかったです。
編)海外展開へのマインドセットですね。
河本)Women’s Startup Labのプログラムを受けて痛感したのは、ドメスティックだけではビジネス規模がスケールしにくいこと。初めからターゲットは海外ありきで想定します。日本は人口がある程度あり、国内だけでもある程度まではビジネスが成り立ってしまうので、「うまくいったら海外展開しよう」と考える。実はその思考が海外展開のハードルを高くしていると感じます。法人・個人に関わらず、起業当初から海外を見据えるマインドセットです。今後国内の人口が減っていく中、海外を当たり前のように視野に入れるマインドセットを最初から獲得しておくのはすごく重要です。
編)事業規模に関わらずということですね。
河本)そうです。事業が軌道に乗った後に海外展開となると、余計ハードルが高くなります。最初からお客様は海外にいるという意識で世界をターゲットにして、最初のステップが日本ぐらいの意識を持った方が、ハードルが低くなります。
例えば、個人事業主の方で、手作りバッグを販売しようとする方がいきなりIPOを考えることはその時点ではなかったとしても、日本だけでなく、これをアジアに売ろうと意識を持った方がお客様が増え、事業規模も広がります。
編)個人事業主で起業を考える女性が、私の小さい事業で海外を見据えていいのだろうかと考えてしまいそうですよね。
河本)事業規模は関係なく、国内に特定する方が事業規模を狭めてしまうので、例えば自分のビジネスは、欧米やアジアで通用するのではと、お客様に対する視野を広げることを起業の初めからやっておく方がいいですね。
エンターテインメントの世界で、日本のアーティストが韓国のアーティストに遅れを取った理由もそこにある気がしています。韓国はマーケットが小さいので、韓国はデビュー時から当たり前のように海外を見据える。日本は、国内で成功してから海外進出を考えることが多い。ここで差が出ます。ターゲットに関しては、個人もビジネス規模も関係ないので、最初から海外を見据えるとよいですね。

編)プログラムに参加した成果としては、ノウハウや海外事業展開へマインドセットでしょうか。
河本)もう一つは、起業時に必要なアドバイザーやVC、良質なネットワークにつなげてもらえたことですね。
例えばピッチには、メジャーなアメリカ人のピッチコーチがついたのは驚きでした。海外で独立する時に頼れる弁護士をつないでくれたり、ハーバード大学の教授や、ビジネスモデルを構築するMITの教授とのネットワークをつないでくれたりもしました。
このように、海外では、起業する際にアドバイザーや支援者がものすごくつくのです。アドバイザーやメンターが複数いることで方向性を間違えずに、ビジネスモデルをブラッシュアップできる。○○ならこういう人を紹介しようという人脈もそこから生まれます。海外では複数のアドバイザーをつけて起業するのが当たり前ですが、日本では、アドバイザーを複数つけて起業するのはまだ一般的ではないですね。そもそも相談する人がいないのが課題とも言われています。とはいえ、アドバイザーやメンターは誰でもいいわけではなく、特に海外で独力では見つけにくいところを、このプログラムでは面談やセッションを通じてネットワークを形成できたのはすごく大きかったです。

スモールビジネスと起業後のケア

編)河本さんが起業された2002年当時は、女性の起業はビハインドな時代。今のように行政の起業支援は少ない頃ですよね。
河本)今は女性起業家が偏見を持たれることはまずないと思いますが(とはいえ、資金調達の判断者は男性が圧倒的に多い問題はあります)、2002年当時に女性が起業するのは、男性の領域に勝手に入ってきたなというような「目に見えない威圧感」をすごく感じていました。もちろんアクセラレーションプログラムみたいなのはなかったですし、今はすごく恵まれていると思います。
編)そういった意味では、この20年で起業支援の環境は格段によくなっていますが、とはいえ女性起業家は少ない。
河本)スタートアップ支援は充実してきていますが、個人事業主やスモールビジネスの起業家の支援も並行して拡充することですね。また起業時だけでなく起業後の支援も継続してゆくことで、起業の見通しが立ち、女性起業家が増える土壌を育めると思います。

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